「恩返し」とは違う、助け合いの精神があった

 マチンガや隣人たちは、私にだけ特別このような対応をしたわけではありません。これは彼らにとって当たり前のこと。窮地に陥ったら、いろんな人々にSOSを発してみる。すると、誰かが運良く助けてくれることがある。その借りは、自分自身が運良く助けることのできる時になんらかの形で返す。そんな態度が彼らの中にはふつうに根付いていました。

 興味深いのは、そこに「私があなたを助けたのだから、次はあなたが助けてね」という感覚がないことです。むしろ、「今この人を助けても、自分が困ったときに助けてくれるかはわからない。だが、きっと誰かは自分を助けてくれるだろう」という、一対一ではない、賭け事のような互酬(ごしゅう)性の精神があったのです。

 そしてそのような「運良く誰かが助けてくれる」という期待で回る社会的世界は、コツコツと貯蓄するように、人間関係に投資する見返りとして将来の安心・安全を得るという考え方とも異なるものです。

取材・文/濱野ちひろ イラスト/伊野孝行