アイドルとして活動する一方、10代でアメリカ映画に出演。ハリウッドへ拠点を移して映画主演を果たし、現在は富士山の麓で農業にいそしみながら女優としての活動を続ける−−。誰も成し遂げたことのない快挙を達成しながら我が道を突き進み、「今が一番幸せ」と笑う工藤夕貴さん。その半生から、変化を恐れず前進するヒントを探ります。

(1)渋々出た映画がハリウッド女優への切符だった ←今回はココ
(2)シッターや日本語教師でつないだLA生活
(3)農業を始めて20年 女優のキャリアも更新中

生意気な態度をとったら合格してしまった

 2021年10月にスタートしたドラマ『山女日記』第3弾に、登山ガイドの立花柚月役で主演している工藤夕貴さん。プライベートでも登山が趣味で農業を行い、自然に親しむ生活をしている工藤さんにとって、ハマり役ともいえる役柄で、2016年から続く人気シリーズです。実は工藤さん、幼少時は、歩くことも運動することも不得意だったのだとか。農業や登山にいそしむまでには、環境的にも精神的にもさまざまな変遷がありました。

 「ちょうど『山女日記3』の撮影中、監督に『あなたは本当に自分が生きたい人生を生きていますか?』と聞かれて、私は迷いなく『はい』って言えたんです。いろんなことを体験してきたからこそ、本当に自分が進みたい道を見つけられた。どう考えても昔より今の方が幸せだし、今は、なりたい自分になることができました」と、工藤さんは今までの半生を振り返ります。

2021年10月にはドラマ『山女日記3』に主演
2021年10月にはドラマ『山女日記3』に主演

 工藤さんの芸能界入りは、12歳でのスカウトがきっかけ。歌手の故・井沢八郎氏の長女として生まれ、歌は好きでしたが、当時はできれば作家か漫画家になりたかったのだそう。

 「もともと自分に自信がなくて、褒められたことがあんまりなかったんですよね。習い事をしても続いたことがないし、スポーツが秀でているというわけでもない。クラスでも浮いているキャラだったのでモテた記憶もないですし(笑)、かわいいと言われたこともなかった。人前に出る仕事をするなんて、全然考えていませんでした」

 スカウトも本当かなと思っていましたが、名刺に書かれた社名を調べると、どうやら本物のようだと分かり、後日事務所を訪問。事務所の方たちと話してデビューを決意することになりました。

 「すごく褒められたんですよ。『受け答えがいいね』とか『かわいいね』とか。写真も撮られたんですけど、『カメラを向けると表情が変わる』とか。こんなに自分が褒められていいんだろうかと思いながら、それがすごくうれしくて。だから、とにかく褒められたくて仕事を始めた感じだったんです。その頃は、歌手になりたいと言っていました」

 ただ最初に訪れた大きな仕事は、歌手ではなく、映画『逆噴射家族』(1984年公開)の主人公家族の長女エリカ役。『狂い咲きサンダーロード』『爆裂都市 BURST CITY』などで熱狂的な支持者を生んでいた新進気鋭の石井聰亙(現・石井岳龍)監督作でした。

 『逆噴射家族』は、後にベルリン映画祭に出品され、イタリアの第8回サルソ映画祭ではグランプリに輝き、国内外で高く評価されている作品ですが、「家庭が舞台の戦争映画」とうたう強烈なブラック・コメディー作品。

 「台本を読んで『こんなことやったら学校に行けなくなる』って、本気で泣きながら事務所に訴えたんですけど(笑)。とにかくオーディションだけでも行ってほしい、って説き伏せられて。絶対落ちてやろうと思って、憎たらしく思われるようにふてくされてオーディションに行ったら、『逆にその態度が面白い』って受かっちゃったんです。当時は、もう、すごいショックでした(笑)」

映画『逆噴射家族』に出演したころ
映画『逆噴射家族』に出演したころ

 後に工藤さんの運命を大きく変えることになるのが、この作品。挿入歌『野生時代』で、念願のアイドル歌手としてのデビューも果たします。大型新人として高額のプロモーション費用が投じられたことも、話題になりました。