今年6月に日本テニス協会の新理事に選出された伊達公子さん。彼女のキャリアをたどると、テニスが大好きな蜜月時代、一転してテニスから一切離れた疎遠な時代、テニスへの情熱から世界へ再挑戦…と人生のフェーズごとに関わり方は変わりながらも、常に伴奏のように寄り添う「テニス」への愛が見えてきます。最終回は、2度目の引退を経て、テニス界のため、そして自身の夢をかなえるため、新たなキャリアの扉を開いた伊達さんの今に迫ります。

(1)選手時代、試合後の記者会見は苦痛だった
(2)30代後半での現役復帰は「いいことだらけ」
(3)世界に通用するテニス選手を育てるための課題 ←今回はココ

セカンドキャリアの次は、蓄積の時間に

 2017年8月、伊達さんはブログで2度目の現役引退を表明します。

 「引退の仕方には、私の中で結構こだわりがあって。けがを理由に引退することだけは、絶対にイヤだったんです。でも2回目は結局、それが避けられない状況になりました。本当は、もう少し続けたかったですね」

2017年のジャパンウィメンズオープンにて現役最後の試合を終えた
2017年のジャパンウィメンズオープンにて現役最後の試合を終えた

 セカンドキャリアでは世界ランキング46位を記録し、当時の日本女子選手でトップランキングという時期も。ひざのけがに続けて肩の手術が必要な状況になり引退を余儀なくされましたが、今回は、1度目の引退時と大きく異なる点がありました。

 「ファーストキャリアの引退は一旦テニスと距離を取りたいという一心だったんですけど、セカンドキャリアの場合は、コートに立って勝負をするということからは離れてもテニスから距離を置くつもりはありませんでした。では勝負をしない私がテニスにどう関わろうかと考えた時に、肩の手術後は動きも制限されるので、蓄積をする時間にしようと思ったんです」

 2018年4月、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に入学。慣れない座学を1年間こなし、以前から問題意識を持っていた日本のコートサーフェス問題について、国内外約6000人へのアンケートを基に修士論文としてまとめます。

 これは、1985年あたりから一気に日本のテニスコートで普及した砂入り人工芝が、世界で戦う選手の育成を阻んでいるのではないかという問題。海外でほとんど使われていない砂入り人工芝のコートで勝つ技術を磨いても、世界には通用しないと伊達さんは訴えます。