2021年上半期だけでも、「男性版産休」として大きな話題となった改正育児・介護休業法、そして超党派の議員が法制化に取り組んだものの暗礁に乗り上げたLGBT理解増進法案など、法改正や法案提出に関するニュースを目にすることは多いですが、どれくらい理解ができていますか? これからは、「リーガル・リテラシーが求められる時代になる」とは、弁護士で国連の元・女子差別撤廃委員会委員長の林陽子さん。いま働く女性が知っておくべき法律、法改正についてまとめます。今回のテーマは、改正高年齢者雇用安定法(高齢者法)です。

(1)育休取得率、女性83%は本当か?数字のからくりを知る
(2)70歳まで働く?再雇用後も持ち越される男女の賃金格差 ←今回はココ
(3)LGBTQへの理解が遅れる日本。法律はどうサポート?

70歳まで働くのが当たり前な時代が到来?

 2021年4月、改正高年齢者雇用安定法(高齢者法)が施行されました。「自分に関係するのはまだ先」と思っている方が多いかもしれませんが、この改正はARIA世代の皆さんのこれからの働き方に大きな影響を与えます。ポイントをしっかり押さえましょう。

 改正前は、事業主は(1)65歳まで定年を引き上げるか、(2)65歳まで継続雇用制度を設けるか、又は(3)定年を廃止するかのいずれかの措置を取らなければならず、希望者の全員を65歳まで雇用継続することが義務付けられていました。これに加え、21年の法改正によって、新たに70歳までの継続雇用が「努力義務」とされました。ここが最も大きなポイントです。さらに事業主には、70歳までの就業を確保するため、以下の措置のいずれかを講じる努力義務が課せられます。

 高齢者法は1971年の施行後、何度か改正され、定年制がある場合には60歳を下回らないことが「努力義務」とされましたが(1986年)、2013年に「義務」へと移行。今回もまずは70歳までの就業確保は「努力義務」ですが、いずれ義務化されるでしょう。さらに、事業主はフリーランス契約への資金提供、起業支援などの措置を講じるべきだと定められましたが、正直なところ実効性があるかは疑問です。例えば社会活動参加への資金提供とは、どんなケースが考えられるのか。今後、事業主がどのような措置を講じていくのか、先進的な取り組みをする企業の好事例に注目していきましょう。

 高齢者法は働く人の就業の機会を増やすことを目的とした法律ですが、背景には急速に進む少子高齢化があります。日本の高齢化率(65歳以上の人口割合)は28.7%で世界一。年金給付が始まる前の期間に無収入者を出さないためには、必要な法律だったと思います。

 ここで大事な視点があります。それは「再雇用前の男女の賃金格差が、再雇用後もそのまま持ち越されてしまう」という点です。皆さんは、男女の賃金格差の現状をご存じでしょうか。

40歳ならあと30年、50歳ならあと20年…70歳まで働き続けるための法整備が進んでいる (写真はイメージ)
40歳ならあと30年、50歳ならあと20年…70歳まで働き続けるための法整備が進んでいる (写真はイメージ)