2021年上半期だけでも、「男性版産休」として大きな話題となった改正育児・介護休業法、そして超党派の議員が法制化に取り組んだものの暗礁に乗り上げたLGBT理解増進法案など、法改正や法案提出に関するニュースを目にすることは多いですが、どれくらい理解ができていますか? これからは、「リーガル・リテラシーが求められる時代になる」とは、弁護士で国連の元・女子差別撤廃委員会委員長の林陽子さん。いま働く女性が知っておくべき法律、法改正について3回にわたって聞きました。

(1)育休取得率、女性83%は本当か?数字のからくりを知る ←今回はココ
(2)70歳まで働く?再雇用後も持ち越される男女の賃金格差
(3)LGBTQへの理解が遅れる日本。法律はどうサポート?

「書いていないもの」をどう見抜くか?

 最近では、法律を理解し活用する能力について「リーガル・リテラシー」という言葉が使われるようになっています。文字通り訳せば「法的識字能力」。「リテラシー」は文字が読み書きできるという意味ですので、リテラシーさえあれば法律の文章は読めます。どのような法律が成立したのか、国会でどういった審議がされたかについては、「知ろう」とさえすればインターネットで調べることができます。

 大事なのは、誰がこの法律を推進したのか? 誰に対してどういうインパクトがあるのか? など、その文脈を読み解くことです。そのような力を法的識字能力といい、そこには「法律を活用すること」、さらに「不足がある点は新しい法律を求めていくこと」も含まれています。今後、ますます個々人が接する情報が増える中では、法律に関してもリーガル・リテラシーを高めることが大事になっていくと思います。

 リーガル・リテラシーの「肝」は「今までと何が変わるのか」、そして「達成すべきだったのに見落とされた点は何か?」ということ。書いてあることを理解するのは非常に大事ですが、一方で「書いていないもの」を見抜く力も重要なのです。とはいえ、専門家ではない皆さんが、いきなり文脈を読み取るのは難しいでしょう。

 まず「大きな国の方針がどの方向に動いていくのか」を見る際に、ARIA読者の皆さんに定点観測してほしいのは、男女共同参画社会基本法(1999年施行)と、それに基づいて概ね5年に1度、策定される「男女共同参画基本計画」です。最新のものは、2020年12月に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画。教育や雇用、意思決定への参画などに関して、それぞれの省庁がどのようなことに取り組むかの目標を定めています。

 労働問題に関する法律や法改正があった場合にお勧めしたいのは、日本労働組合総連合会(連合)や全国労働組合総連合(全労連)などの労働組合、日本経済団体連合会(経団連)などの経営者団体のホームページをチェックすることです。重要な法案についての声明・意見が出ていることがあります。

 2021年6月に大きな注目を集めた改正育児・介護休業法でも、私はまず連合のホームページを見ました。また日本弁護士連合会(日弁連)も会長声明などの形で新法への意見を出しますので参考になります。特に労働関係の法改正は、経営側、労働側、公益(学者など)の3者構成で審議会が作られる慣例があり、ステークホルダーが誰であるかが分かりやすいでしょう。

「法改正」には必ずステークホルダーがいる
「法改正」には必ずステークホルダーがいる

 さらに深堀りしたい人にお勧めしたいのが、独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT、通称「ジル」)のサイト。例えば、育休に関していえば、ジルが「国際的に比較して日本の育児休業制度は充実しているのか?」などを研究し、サイトで公表しています。リーガル・リテラシーを養うために役立つさまざまな調査結果や研究結果、統計情報、特に国際情報が豊富ですので、ぜひご参照ください。

 では、2021年6月に成立した改正育児・介護休業法について考えてみましょう。