「引っ越してから、余裕が生まれ、寛容になった」

 新しい家は仕事にどんな影響を与えているのだろう。尋ねてみると「気持ちにも、思考にも余裕ができた」という答えが返ってきた。

 「壁一面の本棚を前に、仕事のアイデアを練る時もありますし、お気に入りのソファに寝転がって、考え事をする時もあります。特にこの本棚はお気に入りですね。並んだ背表紙を俯瞰して見られるのがいい。これでもだいぶ本は整理して捨てました。遊びにきた演劇仲間が『これ、貸して』って持っていったきり、返ってこない本もたくさんありますけどね(笑)

遊びに来た友人に、壁一面の本棚から参考になる本を貸すことも
遊びに来た友人に、壁一面の本棚から参考になる本を貸すことも

 返却されない本について「まるで無期限の図書館みたい」と笑う鈴木さんの寛容さに、思わず、感心してしまう。この家のご機嫌の尺度は鈴木さんひとりだけのものではないからだ。ここを訪れる誰もがご機嫌になってしまうから、不思議だ。

 「確かに、ここに住み始めて、多少は他人に対して寛容になったかもしれません。まだまだですけど(笑)。長くひとりで暮らしていると、いまさら人と一緒に住むのは無理! と思っていた自分がいましたが、年齢を重ねることで、自分にとって『こうでなければいや』と『どうでもいい』のラインが明確になったこともあって、今なら逆に、誰かと暮らすこともできるかもしれないと思えるようになりました。」

 例えば、友人が訪れるとキッチン脇にぶら下げる、おしゃれなこの家に似つかわしくない安普請のクーラーボックス。この一角に決まってワインやらウイスキーが並び、セルフバーコーナーになるため、「キッチンで料理している人がいると、冷凍庫に氷を取りに行く動線がよくないから、100円ショップで調達したんです」。また、鈴木さんがお気に入りのバスルームにも、訪ねてくる友人を思っての工夫が。「当初はホテルライクなソープディスペンサーを取り付けていましたが、ある日、酔った親友が、落として壊してしまった。だから、もう落としても壊れないようにと、プラスチックのアイテムに換えました」

「ここにあるとみんなにとって便利なんですよね。同じく100円ショップで購入した両面テープのフックにかけてます」
「ここにあるとみんなにとって便利なんですよね。同じく100円ショップで購入した両面テープのフックにかけてます」
毎日バスタブにお湯をはり、湯船につかるのが日課。そんな鈴木さんにとって、聖域でもあるバスルームにも、訪れる友人のための工夫が施されている
毎日バスタブにお湯をはり、湯船につかるのが日課。そんな鈴木さんにとって、聖域でもあるバスルームにも、訪れる友人のための工夫が施されている