「この家で死ねたら、ありがたい」
「まったく意識していないわけではなかったけれど『確かに、そうなるかもな』と思ったらショックで。だからというわけではないけれど、もしもの時に備え、親友に合鍵を預けているんです。しかも、孤独死を時々イメージトレーニングしています。腐るところとか(笑)。いざ、想像してみると、ここで死ねたらありがたい。むしろ幸せというか、ラッキーだなと思う自分もいます。
好きなものに囲まれたこの住まいは、私にとってスポーツカーがメンテナンスのためにピットインするピット同然。言ってみれば、『大人として、自分で自分の機嫌をなおせる場所』ですね。ここに帰ってくれば、私の一定レベルの機嫌の良さを保てることが保証されています」
演出家という職業柄、機嫌のいい状態で毎日稽古場に行けることは、周りのスタッフや俳優たちのパフォーマンス能力を引き出す上でもとても重要なこと。単に有能なだけではダメで、現場で新しい発想が生まれたり、みんなが最大限の能力を発揮できたりする場をつくるには、やっぱり機嫌のいい状態でいなくてはいけない。
「自分が機嫌よく過ごすためにぜいたくをする必要はないけれど、他者にも影響してしまう自分の『ご機嫌』をキープすることには、いくらでもお金を使おうと思っているんです。結局まわりまわって自分の元にかえってくるし、そのほうがお得だからです。この家には稽古中の舞台のスタッフや俳優を呼ぶことをありますが、自分から仕事の話は一切しません。だって、私もここにいる人もみんな機嫌よく過ごしたいじゃないですか。いつもくだらない話ばかりしていますよ」