「自宅で家族とともに最期の時間を過ごしたい」。そんな患者の希望にとことん寄り添う診療所がある。京都府にある渡辺西賀茂診療所だ。理事長の渡辺康介さんは、自分たちの行う訪問診療を「おせっかい」と称する。そのおせっかいがあるからこそ、多くの患者とその家族が、死という不幸を、幸福な時間と共に迎え入れることができるのだという。第2回は、渡辺さんの言う「おせっかい」とは何なのかについて話を聞いた。

(1)「家で自分らしく死にたい」僕が訪問診療を始めたワケ
(2)おせっかいが世界を回す 在宅医療は地域密着であるべし ←今回はココ
(3)訪問医療はチームワーク

末期がん患者の家族旅行にボランティアで同行

編集部(以下、略) 「おせっかい」についてお聞きしたいのですが、その前に渡辺西賀茂診療所のチームがどれほどおせっかいなのか、1つの事例を紹介したいと思います。

加世子さん(仮名)39歳女性 食道がんの末期
大学病院で手術、治療を受けるも余命宣告を受けていた。本人の希望で夫と娘の暮らす自宅に一時帰宅することになった。

 大学病院の地域連携室から連絡を受けて渡辺さんと診療所のスタッフが訪問したところ、加世子さんは呼吸困難で苦痛と闘っていた。呼吸苦の緩和を施して小康状態を保てるようになったところ、加世子さんは「今夜、子どもに浴衣を着せて北野天満宮のお祭りに行きたい」と言う。毎月25日にこのお祭りに行くのが家族の恒例だったのだ。加世子さんの意志は固い。

 幸い処置によって呼吸困難は緩和されていたので、加世子さんは子どもと一緒に天神さんのお祭りに行くことができた。

 彼女の希望はこれだけではなかった。「子どもと約束していた潮干狩りに行く」と言うのだ。しかも、行き先は京都から180km離れた愛知県の知多半島にある海水浴場。入院したことで果たせなかった子どもとの約束を果たしたい。それによって命が短くなってもいいというほど本人の思いは強かった。

 自分に残された時間が少ないことを知って、子どもの楽しみをかなえてやりたいという彼女の希望を、夫も許しているようだった。しかし、呼吸すら大変な状態で家族だけで遠出するのは無謀だ。看護師が「うちの看護師もたまにはゆっくりさせてやりたいので、一緒に連れて行ってもらえませんか」と同行を申し出た。

 その夜、誰が同行し、途中で何か起こったらどんな対処をするか、どんな機器を用意するか、酸素ボンベを積んで高速道路を走行中に事故が起こったら誰が責任を取るのか、他の患者の訪問スケジュールをどう調整するかなど深夜まで検討を重ね、疼痛(とうつう)緩和認定看護師と男性看護師、スタッフ1人の3人が同行することになった。しかもこの費用は診療所が負担するボランティアだ。方針を伝えると「あんたら、おせっかいやなぁ」と加世子さんは言った。

家族での潮干狩りの望みをかなえた加世子さんは…

 当日、呼吸苦は強くなっていたが彼女の「行く」という決意は変わらなかった。緩和の処置を行い3時間の車の旅に出た。写真には看護師のサポートの下、子どもと海に足をつけて楽しそうに過ごす加世子さんの姿があった。

 帰りの車の中、加世子さんの意識は薄らいでゆき、夫が彼女を抱きかかえ、子どもが手を握って声を掛け続けた。加世子さんは楽しい思い出をかみしめるかのように笑顔を浮かべ、家にたどり着いた後、安心したように息を引き取った。