「自宅で家族とともに最期の時間を過ごしたい」。そんな患者の希望にとことん寄り添う診療所がある。京都府にある渡辺西賀茂診療所だ。理事長の渡辺康介さんは、自分たちの行う訪問診療を「おせっかい」と称する。そのおせっかいがあるからこそ、多くの患者とその家族が、死という不幸を、幸福な時間と共に迎え入れることができるのだという。渡辺さんのみとりの流儀、おせっかいの中身とは何なのか。第1回は、訪問診療を始めた理由について話を聞いた。

(1)「家で自分らしく死にたい」僕が訪問診療を始めたワケ ←今回はココ
(2)おせっかいが世界を回す 在宅医療は地域密着であるべし
(3)在宅医療はチームワーク ぶれても話し合って前進する

 近年、自宅でのみとりを希望する人が増えているという。在宅医療が病院での医療と一番大きく違う点は、患者の生活や人生の背景がそこにあるということではないだろうか。病気も、死も、人生の一部として受け入れる。それを手助けするのが訪問診療の役割なのかもしれない。

 渡辺西賀茂診療所のスタッフは24時間365日、患者の希望をかなえ、本人も家族も悔いなく最期を迎えられるように全力を尽くす。時には末期がんの患者の「娘と潮干狩りに行きたい」という希望をかなえるために万全の体制で臨む。なぜそこまで踏み込んだサポートを行うのだろう。

渡辺西賀茂診療所 理事長 渡辺康介さん
渡辺西賀茂診療所 理事長 渡辺康介さん

編集部(以下、略) 渡辺さんが訪問診療を始めたのは、何がきっかけだったのですか?

渡辺康介さん(以下、渡辺) きっかけは診療所の外来部門を手伝うようになったことです。医学部を卒業して、大学病院で勤めた後、総合病院の泌尿器科の部長をしていた私は、外来、入院患者の回診、手術と多忙な日々を送っていました。一人ひとりの患者さんと関わる時間は短く、カルテに書かれていること以外、患者さんのことを何一つ知らない。それで本当に病気が治せるだろうかという疑問が生まれてきたのです。

 妻は循環器科の医師で、1985年に診療所を開業していて、僕も手伝うようになったのですが、一般内科なのでいろんな患者さんが来ました。

 50代、60代の患者さんが中心でしたが、治療を続けるうちに外来受診が難しくなる人がでてくるのです。通院できないのは、歩行が難しくなるといった身体的な要素もあるし、認知症などの要因もあります。

 従来なら、病院は患者が来るのを待つことしかできず、そこで患者と主治医の関係は途絶えてしまうのですが、患者さんの家族から往診の依頼が来るようになりました。

 そのうち、家族から「昼間に預かってもらえませんか」という声が出始め、僕らは診療所の2階を使って施設を作り、家族の負担が少しでも減ればという思いで、10人くらいを対象に小規模で食事の介助やリハビリを提供していました。まだ介護保険制度が始まる前の話です。