多忙な仕事の傍らで幅広い趣味を持ち、長年研さんを積んできたピアノで体得した感覚は投資の仕事にも生かされていると話す、レオス・キャピタルワークス会長兼社長の藤野英人さん。何事にも挑戦し成長を目指すことを重んじるがゆえに、かつては成長志向を当然のように周りの人間にも当てはめてしまっていたと振り返ります。そんな自分の「横暴さ」に気づく出来事が起きたのは、32歳のときでした。

(上)私がコンクールでショパンのマズルカを弾く訳
(下)「誰もが頑張れて当然」 横暴なリーダーだった ←今回はココ

 僕は、あらゆる物事において「先生に教わる」ということがとても大事だと思っています。ピアノも4歳の頃に始めて以来、社会人になって最初の8年間を除いて、今もずっとレッスンを受けています。

 音楽でもスポーツでも仕事でも、根本となるのは心技体です。心のあり方と、技術と、それを実践に移す体の動きを身に付けるのは、どの分野でも必要なこと。だから、ある1つの世界で先生に教わったメッセージというのは、仕事など他の世界にも通じてくることが多々あります。

「リードとは、相手の進む空間をつくること」

 分かりやすい例が1つあって、ピアノの他に、僕は妻と一緒に社交ダンスもやっています。社交ダンスでは女性をリードしていくのが男性の役割と決まっていて、男性が出している情報に女性が反応して動きます。的確に情報を出せないと女性はうまく踊れません。

 あるとき社交ダンスの先生が、「リードするというのは押すことでも引くことでもない。相手の進む空間をつくることだ」と言いました。

 あっちに行きたいからといって女性の体を押すと、一般的には押されたら押し返す反応が出るので、体がガクガクっとなります。かといって急に引き寄せれば、「えっ、何?」という感じでやはり流れが止まる。でも、相手が行きやすくなるようにスペースをつくっていけば、女性は吸い込まれるようにそちらへ進むことができます。男性がリードしているのだけれど、女性にしてみると、自分の意思で自由に舞っているような感覚になる。これってまさに、仕事での部下の導き方そのものだなと思ったんです。

 同じようにピアノでも、体の動かし方や楽譜の読み方など、先生に教わることの一つひとつが、仕事にもつながると感じています。

 大人になると、何かを先生に教わる機会は極端に減ります。でも、圧倒的な経験と技を持っている人から心技体について習うことで得られる学びはすごく深い。趣味を深めている人に割と仕事ができる人が多かったりするのは、趣味での学びを横展開できるところが大きいのではないかと思っています。

「趣味の世界で優れた技量を持つ人に教わる心技体の学びには、仕事にも生かせることが数多くあります」
「趣味の世界で優れた技量を持つ人に教わる心技体の学びには、仕事にも生かせることが数多くあります」