各界で活躍する方々が、自身にとって忘れられないクラシック音楽の一曲と共に人生を語ります。今回登場するのは、レオス・キャピタルワークス会長兼社長の藤野英人さん。経営者、そして「ひふみ投信」シリーズのファンドマネージャーとして多忙な日々を送る一方で、ピアノの名手という全く別の顔も持っています。そんな藤野さんが挙げたのは、先ごろ出場したコンクールで演奏したショパンの作品。若い頃と今とで、曲に対する印象が大きく変わったといいます。

(上)私がコンクールでショパンのマズルカを弾く訳 ←今回はココ
(下)「誰もが頑張れて当然」 横暴なリーダーだった

 先日、「ショパン国際ピアノコンクール in ASIA」の地区大会に出場しました。これは、今年ポーランドのワルシャワで開催されたショパン国際ピアノコンクールの下部組織といった位置づけの大会。プロのピアニストを目指す人たちの登竜門になっている一方で、アマチュアのピアノ愛好家が腕を競える部門も用意されています。

 本家のコンクールは5年に1度ですが、「in ASIA」は毎年開催されていて、ほぼ毎回出場しています。無事に地区大会を通過し、全国大会へ進むことになりました。

 今回のコンクールで演奏曲として選んだのが、ショパンの「マズルカ 作品24」です。たまたまなのですが、この曲は6年前にも同じコンクールで演奏していて、そのときは全国大会も通過して本選のアジア大会まで行けました。だから縁起が良いんですよね。

 マズルカというのはポーランドのいなかの舞踊のことで、ショパンはマズルカを題材にした作品を数多く作曲しています。実は大学生くらいまでは、マズルカに全然興味がありませんでした。地味でよく分からないし、もっと華やかな大曲のほうが弾いてみたかった。面白さに気づいたのは大人になってからです。

嫌々やっていたピアノにある日訪れた「奇跡の瞬間」

 ピアノを始めたのは4歳の頃。そもそもは母に無理やりやらされたもので、嫌でたまりませんでした。でも、小学校5年生のときに奇跡の瞬間が訪れた。

 音楽の授業が終わった後、みんながいなくなった音楽室で、翌日のレッスンのために少しだけピアノを弾いていたんです。すると、一人の女子が忘れ物をしたのか、音楽室に戻ってきた。彼女はすぐに出て行ったのですが、数分後、仲間の女子たちを連れて集団で再び現れました。

 「きゃー、藤野くん、ピアノ弾けるの!?」「ねえねえ、エリーゼのためにとか弾ける?」。そう聞かれて、ぱらぱらっと弾いてみせたら、またきゃーすごい! と大騒ぎ。そこで僕は気づいたのです。ピアノって、モテるのかもしれない、と。ほとんどゼロだったピアノへのモチベーションが、そこでいきなりマックスになりました(笑)。

 中学生になると、校内の合唱コンクールで伴奏をやったりして、また注目を浴びました。やる気が上がっていくと同時に弾ける曲の幅も広がります。もはやモテるとかはどうでもよくなり、ピアノそのものが好きになっていました。