ビジネスの転機で背中を押してくれたシンフォニー、大切なライフイベントを彩ったアリア…クラシック音楽を愛する各界のリーダー層が、自身にとって忘れられない一曲と共に人生を語ります。今回登場するのは、楽天副社長執行役員 CIO & CISO(最高情報責任者&最高情報セキュリティ責任者)の平井康文さん。名だたる外資系企業でグローバルなビジネスに携わり、現在は楽天の開発部門のトップとして日本から世界戦略を発信する立場にある平井さんの一曲は、仕事をする上で心の支えにしているドキュメンタリーにまつわるものでした。

(上)小澤征爾が向き合う問いはビジネスに通じる ←今回はココ
(下)社会的感受性が組織の力を最大化する

 クラシックは中学時代に友人の影響で聴くようになって、大学ではオーケストラに入ってチェロを始めました。以来、海外赴任時代も含めて仕事の傍ら、ずっとアマチュアオーケストラで演奏活動を続けています。

 マーラーはどの交響曲も好きなのですが、2番を選んだのは、すごく思い入れのあるDVDに登場する曲だからです。世界的指揮者、小澤征爾に密着したドキュメンタリー作品『OZAWA』で、何度も繰り返し見ています。

東洋人が西洋音楽をどう表現するのか

 初めて見たのは多分1985年か86年、新卒で日本IBMに入社し、四国の高松で働いていた20代半ばの頃です。地元のアマチュアオーケストラで出会って結婚した妻が、僕が小澤の音楽が好きなことを知っていてクリスマスにプレゼントしてくれました。そのときにもらったのはベータマックスのビデオテープ。今手元にあるのはその後DVD化されたものです。

 ドキュメンタリーでは、当時アメリカ・ボストン交響楽団の音楽監督を務めていた小澤がリハーサルをする様子や、若い指揮者を指導する場面が登場します。舞台となっているのがアメリカのタングルウッド音楽祭で、最初は日本にはない野外音楽祭に憧れ、作中に度々流れるマーラーの2番という作品の魅力が印象に残りました。そしてもう一つ心をとらえたのが、「東洋人が西洋音楽をどう表現するのか」という、答えのない命題に小澤が取り組んでいる姿です。

 途中で場面はオーストリアのザルツブルク音楽祭に変わり、小澤はそこで世界的チェリストのヨー・ヨー・マと共演します。レストランで一緒にランチをとっていた2人はワインを飲んでベロベロになりながら、すごい議論を始めるんです。