日本人らしさを生かしながらどうグローバルな視点を持つか

 楽天ではそれまでとは違って、今度は逆に日本が本社。ここからグローバルな戦略を発信、展開していく立場にあります。僕は楽天のグローバルの開発部門を統括していて、組織としては日本に約2700人、海外も合わせると約4000人のエンジニアが働いています。自分でホワイトキャンバスに世界戦略を描き、実践できることが醍醐味ですが、日本本社発信のグローバル戦略というのは、いろんな業界を見てもこれまで成功しているところはあまりないように思います。

 もちろんトヨタのように、同じクルマという商品を全世界で販売するということであればある程度成功事例はあるかもしれませんが、楽天の場合は国ごとに事業モデルが異なります。そうしたときにこのドキュメンタリーを見て、日本人の特性や強みを生かしながら、いかにグローバルな視点、グローバルスピリットを持つかということを考えます。

 小澤が作る音楽って、ユニバーサルだと思うんですよね。奇をてらってテンポをゆらしたりするようなことが基本的にない。東洋人による西洋音楽という中で、最大公約数を取ったときに彼の音楽がユニバーサルになったのか、それとも彼の人間性なのかは分かりません。ただ指揮法としては、優れた音楽教育者である斎藤秀雄の教えを受けた明確な振り方で、確かなテクニックに裏付けられている。それは本当にすごいものだと思います。

 それに加えて小澤が海外で成功したもう一つの要素に、彼の人なつこさがあると思います。英語で言うとインティマシー(intimacy)でしょうか。誰でも「セイジ、セイジ」と言って集まってくるし、彼自身も平等に、気さくに接する。

 小澤さんの人柄については一つ思い出があります。

「マーラーの交響曲は全部好きですね。絵画でたとえると、19世紀ウィーンのクリムトの世界のような魅力があります」
「マーラーの交響曲は全部好きですね。絵画でたとえると、19世紀ウィーンのクリムトの世界のような魅力があります」