ヨー・ヨー・マは両親が中国人ですが、小さいときからアメリカで暮らしていた人。かたや小澤は日本で育ち、斎藤秀雄のもとで指揮を学んだ後、単身欧米に渡ってキャリアを切り開いてきました。

 議論の中ではアメリカ育ちのヨー・ヨー・マも、「東洋の文化というのは個性よりも同調、和を重んじる」と言っています。でもそれでは西洋では通用しない、個性を強調しなくてはいけない、と。それに対し小澤は「それは僕にとっても重要な問題」と応じますが、途中ではっとしたように「これはプライベートな問題だから撮らないで」と言って、そのシーンはブツッと切れます。

 ここには、ビジネスの世界におけるグローバリゼーションについてのメッセージが入っているんじゃないかと思うんです。

日本法人社長として本社と向き合う挑戦の日々

 初めてこのドキュメンタリーを見た当時、自分がグローバルに仕事をしていくなんていう意識は全くなく、出身地でもある四国にこのまま一生いるんだろうなと思っていました。でもその後、楽天に来るまでの間にIBM、マイクロソフト、シスコシステムズとずっと外資系で働いてきた。シスコでは日本法人の社長として、本社に対して日本のお客様の要求や、日本市場の特性をどんどん伝えていくことに挑戦しました。

 本社から見たら日本は数ある市場の一つに過ぎません。規模としては米国に次ぐ大きさでも、成長率はインドや中国、東南アジアの国々のほうが当然高いですから、どうしても投資はそちらに行ってしまいます。そういう点で非常に苦労したときに、小澤のドキュメンタリーを見て勇気をもらったんです。

 楽天に来てからは、特に何度も見直すようになりましたね。

タングルウッド音楽祭には、のちにニューヨーク勤務になった際に毎年家族で出掛けた。小澤征爾にサインをもらったプログラムやチケットは今も大切にとってある
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