自分に自信が持てない思春期を過ごしていたとき、高校時代に留学先で聴いたラヴェルの「ボレロ」に励まされ、目の前のことを懸命にやろうと心掛けてきた松本志のぶさん。日本テレビのアナウンサーとしてキャリアをスタートさせてからも、基本を大切に、地道な歩みを重ねてきました。一見華やかに見えるアナウンサーの仕事が、意外と自分に合っていたと思う理由とは? また、クラシックファンの一人として、コンサートの司会を務めるときの思いについても聞きました。

(上)松本志のぶ 自信のない私をラヴェルのボレロが励ました
(下)スポーツ実況で大失敗、救ってくれた徳光和夫さんの一言 ←今回はココ

アナウンサーとして臨む姿勢は報道もバラエティーも同じ

 アナウンサーに対して華やかな仕事のイメージを持っている方は多いと思います。でも、私の中ではアナウンサーって「画面に出ている黒子」なんです。

 ニュースを読んでいるときはニュースそのものが主役だし、スポーツ番組であればスポーツ選手が主役。バラエティー番組だったら、メインになる芸人さんやタレントさんがいて、その人たちをサポートしつつ、場面に応じて盛り上げたり、場を回したりします。

 日本テレビの局アナ時代は情報やスポーツ、報道、バラエティーと、同時にいろんな番組を持たせてもらっていて、どうやって切り替えているんですか? とよく聞かれました。でも、何かを変えている意識はないんです。「目の前のこと、その場で求められることをやる」という意味では全く同じ。いわば職人です。

 生放送でのアナウンサーは、「時間管理の職人」。「この原稿を53秒で読んでください」とか、「58秒で原稿を読んだあとに13秒でCMに振ってください」といった条件に対応していきます。そうやって秒数にきっちり入れることと、かまないことは、アナウンサーとして当たり前のこと。とはいえどちらも結構大変で、こういう基本を確実にやっていくと、周囲からいつしか「任せられる」と言われるようになるんです。

 アナウンサーの仕事も、まさに大学生のときにニューズウィークのコラムで読んだ話と同じで、とにかく一つ一つの地道な作業を大切にやってきました。主役になりたいとか、何か大きなことを成し遂げたいと思ったことは1回もなくて、そこが合っていたのかもしれません。

 とは言うものの、「向いてない、もうやめよう」と思ったことなんてしょっちゅうです。30代の頃、今はなくなってしまった大会ですが、横浜国際女子駅伝の実況を担当したことがありました。スポーツ実況は豊富な語彙と瞬間の判断力がなければできない難易度の高い仕事です。その力が備わっていないことは分かっていましたが、自分で事前取材に行って準備をし、いろいろなケースを想定したトレーニングも重ねて本番に臨みました。

 結果は、ボロボロでした。

「アナウンサーは画面に出ている黒子。バラエティーではカラフルな洋服を着た黒子だと思っています(笑)」
「アナウンサーは画面に出ている黒子。バラエティーではカラフルな洋服を着た黒子だと思っています(笑)」