「クラシック音楽のコンサートへ行くと、指揮者や奏者が自身の理想とする表現を圧倒的な精度の高さで追い求める様子に大きな刺激を受ける」と語る、サマリー代表取締役の山本憲資さん。クラシックをはじめ現代アートや伝統芸能、食など「解像度へのこだわり」で形作られる世界をこよなく愛する山本さんは、そこから得たものを経営者の仕事にどうリンクさせているのでしょうか。

(上)小澤征爾がサプライズ指揮 心に刻まれたベートーヴェン
(下)心を動かすものは、合格点の先にある ←今回はココ

 僕は新卒で電通に入社した後、コンデナスト・ジャパンに転職して雑誌「GQ JAPAN」の編集者をしていました。雑誌作りとしては最後のいい時代を経験できましたが、雑誌作りを取り巻く環境が年々シビアになっていく中で、次のステップを考えるように。2010年、29歳のときに起業し、モノにまつわる情報に特化したSNS「Sumally(サマリー)」の提供を始めました。

 どうしても起業したいという思いがあったわけではないんです。ただ、編集者って、カメラマンやデザイナー、ライターなど、フリーランスの方々と仕事をする機会がすごく多いんですね。一流の人ほど、僕のような若い編集者であっても、真剣に考えていることには真剣に向き合ってくれるように感じて、「自分もこういうふうに生きたい」と思わせてくれる度合いがすごく高かった。

 「モノでつながっていくソーシャルメディア」というアイデアは、別にどこかのIT企業に転職して実現してもよかったのですが、「そういうアイデアがあるのだったら自分でやってみたら」と応援してくれる人たちがたくさんいたんです。それで、自分も憧れる人たちのように独立してやってみようと会社を立ち上げました。

「会社員時代にも尊敬する先輩はいましたが、自分もこんなふうに生きたいと思わせてくれたのは、フリーランスで一流の仕事をしている人たちでした」
「会社員時代にも尊敬する先輩はいましたが、自分もこんなふうに生きたいと思わせてくれたのは、フリーランスで一流の仕事をしている人たちでした」

起業家は、指揮者や演奏家に近いところがある

 15年には、ユーザーから今すぐ使わないものを預かり、それをデータ化してスマホで一元管理できるようにしたサービス「サマリーポケット」をリリース。サービスが少しずつ成長し、テレビCMも流せる規模まで到達したことは素直にうれしいなあと思う部分もありますが、起業家というのは面白いもので、チャレンジをやめることはないんです。

 ソフトバンクの孫正義さんしかり、楽天の三木谷浩史さんしかり、起業家と呼ばれる人たちの中には金銭的にはもうとっくに十分なステージに達していても、前のめりなチャレンジを続ける人がいらっしゃいます。前のめりに攻めて、リスクを取って挑戦を続ける限り「起業家」なんでしょうし、そうするとピンチって訪れ続けるんですよね。

 そういう方々からすると我々はずいぶん手前の段階にいますが、とはいえチャレンジを続けて、ピンチに直面して乗り越えての繰り返しでやってきています。「こうすればいいよね」という場所にとどまることがなく挑戦を続けるという側面には、指揮者や演奏家に近いところがあるかもしれません。