自身も子どもの頃からヴァイオリンに親しみ、クラシックの中でも、異なる魅力を持つ楽器が生み出すハーモニーの妙を味わえる弦楽四重奏にとりわけ引かれるというJR貨物代表取締役社長の真貝康一さん。音楽がもつ調和の力は、貨物鉄道輸送という事業の根幹にも通じるものだといいます。その思いを強くしたのが、東北支社長として東日本大震災の復旧に取り組んだ日々でした。

(上)JR貨物社長 震災後の東北で花開いた音楽と人との縁
(下)音楽がもつ調和の力は物流事業でも生きる JR貨物社長 ←今回はココ

地震と津波で東北一円の石油供給ルートが寸断

 ハーモニーという言葉の語源に「つなぐ」という意味があるように、音楽には人と人とをつなぐ力があります。片や貨物輸送の仕事も、つながってなんぼの商売です。鉄道のレールがつながっていなければ、お客様から預かった荷物を運ぶことはできません。それが分断されたのが東日本大震災です。崩れてしまった「調和」をどうやって回復するのか。それは、いかに多くの人の仕事が組み合わさって貨物輸送が成立しているかということを改めて感じる日々でした。

 東日本大震災の発生直後から、JR貨物の東北支社長として取り組むことになったのが、緊急石油輸送です。平常時はグループ会社である仙台臨海鉄道の仙台北港駅を起点とし、内陸へ向かう路線から東北本線に入って、石油基地のある北の盛岡と南の郡山へそれぞれ石油を輸送。そこから東北一円に石油が届けられていました。ところが仙台港一帯が地震と津波で壊滅的な被害を受け、製油所では火災も発生。内陸へ向かう線路も、盛岡と郡山へ向かう東北本線も不通となってしまいました。まだ寒い時期の被災地の石油不足は深刻で、一刻も早く代替ルートを確保しなくてはいけません。関東地区から運ぶしか方法はなく、横浜市の沿岸部にある根岸の石油基地から日本海側の路線を迂回して盛岡へ、郡山へは新潟から東へ向かう磐越西線を使って届けることになりました。

 しかし磐越西線は通常は貨物列車が走っておらず、本来は列車を通すための確認作業に相当の期間を要します。それを数日でやらなければいけないという局面に立たされました。

「震災発生時、東北はまだ雪のちらつく季節。寸断された石油輸送の再開は一刻も早く実現する必要がありました」
「震災発生時、東北はまだ雪のちらつく季節。寸断された石油輸送の再開は一刻も早く実現する必要がありました」