音楽つながりの人の輪から生まれた交流スペース

 また、当時のJR東日本仙台支社長で、復旧作業に共に取り組んできた里見雅行氏は実は私の高校時代の同級生でピアノの名手。こうした音楽でつながる人たちを引き合わせようと、皆で一緒に食事をする場を設けました。そこで話題にのぼったのが、渋谷先生が音楽仲間と取り組んでいた「被災地へピアノをとどける会」の話でした。津波でピアノが流され、練習できなくなってしまった子どもたちのために、ピアノの寄贈を全国から募って、必要とする教育施設や個人宅などへ届けるという活動です。

 会のことは知っていましたが、渋谷先生によると、いざ寄贈されたピアノが届いても、沿岸部の被災地域には置く場所がないということでした。すると、それを聞いた仙建工業の吉田社長が、「うちの本社1階にピアノを置ける場所がある」とすぐに動いてくれて、とんとん拍子で「ハナミズキ2-13」というオープンスペースの開設に至ったのです。寄贈されたグランドピアノが置かれ、誰もが気軽に音楽を楽しみ、音楽を通じて交流できる場が生まれました。

 2012年11月7日のオープニングセレモニーには、渋谷先生や松山さんをはじめ、里見氏、辻本さん、そして私も出演。さらにはブリヂストンタイヤジャパン(当時)北日本支社長の鮎川克平氏にもヴァイオリンで参加してもらいました。彼は東大のオーケストラの同級生で、手伝ってほしいと声を掛けたのです。これも東北に来て驚いたまさかの音楽つながりです。

 「ハナミズキ2-13」は、復興のシンボルのような形で、オープン以来地元の方々に親しまれています。震災復興の仕事はいろいろやりましたが、人々の生活を豊かにするような社会貢献の意味では、音楽のつながりが実を結んだとりわけ思い出深い出来事です。

「ハナミズキ2-13」オープニングセレモニーで恩師の渋谷由美子さんとヴァイオリンを演奏する真貝さん(写真提供/真貝さん)
「ハナミズキ2-13」オープニングセレモニーで恩師の渋谷由美子さんとヴァイオリンを演奏する真貝さん(写真提供/真貝さん)
東北支社長時代に取り組んだ震災からの復旧対応は、真貝さんの仕事人生においても大きな節目に。詳しくは(下)で紹介します
東北支社長時代に取り組んだ震災からの復旧対応は、真貝さんの仕事人生においても大きな節目に。詳しくは(下)で紹介します

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音楽がもつ調和の力は物流事業でも生きる JR貨物社長

取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/鈴木愛子

真貝康一
日本貨物鉄道(JR貨物)代表取締役社長
真貝康一 しんがい・こういち/1955年生まれ、秋田県出身。東京大学法学部卒業後、78年に日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。ハウステンボス常務取締役等を経て、2007年にJR貨物に出向、08年に転籍。グループ戦略部長、常務執行役員東北支社長、取締役兼常務執行役員鉄道ロジスティクス本部営業統括部長等を務めた後、18年に代表取締役社長兼社長執行役員に就任。