19世紀ロシアの作曲家であるボロディンは自身でもチェロを弾いたそうですが、面白いのが化学者としても非常に優秀で、有機化学の分野でものすごい業績を残した人だということ。これは「妻にささげる曲」として作られたこともあってメロディーは非常に甘美で情緒的なのですが、一方で有機化学の化学式で作ったんじゃないかと思わせるくらいに、構成がとてもうまくできているんです。

 四重奏の4つのパートが絶妙に絡み合い、その楽器の特性が最も生きるタイミングで交互に表に出ながら、全体が美しいハーモニーを奏でる。ベートーヴェンやモーツァルトの弦楽四重奏曲も好きですけれど、音楽の「調和」の魅力を一番感じるのはこの曲です。

「ボロディンの弦楽四重奏曲第2番は、甘美なメロディーであると同時に、楽器の特色を生かす曲の構成が絶妙。ハーモニーの魅力を存分に味わえます」
「ボロディンの弦楽四重奏曲第2番は、甘美なメロディーであると同時に、楽器の特色を生かす曲の構成が絶妙。ハーモニーの魅力を存分に味わえます」

震災から1年後に計画したコンサートで起こった偶然

 私は30年ほど銀行に勤めた後、2007年にJR貨物へ来ました。最初の2年間はグループ会社を担当する部署にいましたが、貨物鉄道の現場を知らなければ話にならないだろうと、09年から東北支社長に。任期は大体2年ということで、そろそろ後任への引き継ぎ書を準備しようというときに起こったのが、11年3月11日の東日本大震災です。旅客鉄道だけでなく貨物鉄道も大変な被害を受け、結局そこから2年、東北で復旧対応の陣頭指揮を執ることになりました。

 震災から1年ほどたってようやく少し落ち着いてきた頃、貨物鉄道輸送の関連事業者で構成する鉄道貨物協会仙台支部の会合で大学時代の恩師、渋谷由美子先生のコンサートを計画しました。通常の会合では外部講師を招いて講演を行っていたのですが、震災復旧で誰もが大変な日々を過ごしてきた中、たまには音楽もいいのではないかと考えたのです。そのときに一緒に出演していただいたのが、先生と同じく仙台で活動するピアニストの松山裕美子さん。ここで一つの偶然が起こります。鉄道関連の工事でJRと関係の深い仙建工業という会社があって、社長の吉田さんとは個人的にも気楽に話す仲だったのですが、よく見かけていた社長秘書の辻本さんという女性が、松山さんの教え子で大学時代にピアノを専攻していたことが分かったんです。