徹底的に悪あがきをすれば、後悔しない

―― 会社員時代の経験で、その後の作家生活に生きたと思うことはありますか。

恩田 まさに、仕事は量をこなさないと分からないということですかね。あとは「つべこべ言わずに体を動かせ」というのは結構正しいなと思います。

 というのも、私たちは男女雇用機会均等法が施行されて、おそらく最初に「新人類」と言われ始めた世代。会社では、「こいつらは説明して、それを聞いて納得しないと動かない」と上の人たちに散々言われました。私自身、仕事で「なんでこれをやるの? 無駄じゃない?」と疑問に思うこともありました。

 でも結局、知識も経験もないうちは、説明されたところで全然分からないわけですよね。だから、とにかく動いてみろというのはある程度正しいなと。特に自分が後輩を教える立場になってからはそう思いました。

 その経験があったから、作家としてのスタート時にとにかく何でもやってみたというのはあります。

―― 恩田さんは多作で手掛けるテーマも幅広く、デビュー以来コンスタントに作品を発表し続けています。ARIA世代はキャリアがそれなりに長くなってきて、仕事がルーティーン化してしまったり、行き詰まりを感じたりということも出てくる時期です。恩田さんが書き続けるために大切にしていることは何でしょうか。

恩田 やはり、いつも新鮮な気持ちで書きたいとは思いますね。そのためになるべく違うジャンルや題材のものに取り組みたいと思っています。あとは自分の中で決めていることは、常に悪あがきをすること。それは新しいテーマに挑戦するということでもあるし、実際に執筆しているときに、ああでもない、こうでもないとひたすら考えることです。私は一気に書き上げるということはあんまりないです。

 とことん悩んで、あがいてあがいて、毎回ベストを尽くす。そうすれば、後悔はしないで済むと思っています。

恩田さんの一曲「シューマン ピアノ協奏曲」ここで聴けます
【演奏会】
◆京都市交響楽団特別演奏会 ニューイヤーコンサート
2020年1月12日(日)14時半、京都コンサートホール(京都)
指揮:クレメンス・シュルト
ピアノ:岡田奏
曲目:
シューマン:歌劇「ゲノゲーヴァ」から序曲
シューマン:ピアノ協奏曲イ短調
シューマン:交響曲第3番「ライン」
料金:S5500円~P2000円
問い合わせ:075-711-3231

◆読売日本交響楽団 みなとみらいホリデー名曲シリーズ
2020年2月11日(火・祝)14時、横浜みなとみらいホール(神奈川)
指揮:山田和樹
ピアノ:イーヴォ・ポゴレリッチ
曲目:
グリーグ:二つの悲しき旋律
シューマン:ピアノ協奏曲イ短調
ドヴォルザーク:交響曲第7番
料金:S7600円~B5600円
問い合わせ:0570-00-4390

◆読売日本交響楽団 名曲シリーズ
2020年2月13日(木)19時、サントリーホール(東京)
出演者、曲目、料金は上記2月11日の公演と同じ
問い合わせ:0570-00-4390

※チケット販売状況は2019年10月10日時点の内容を掲載しています。最新情報は各問い合わせ先でご確認ください。

取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/花井智子

恩田陸(おんだ りく)
恩田陸(おんだ りく) 1964年、宮城県生まれ。92年に『六番目の小夜子』で作家デビュー。2005年に『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞、06年に『ユージニア』で日本推理作家協会賞、07年に『中庭の出来事』で山本周五郎賞を受賞。国際ピアノコンクールに集う4人の天才ピアニストの成長を描いた『蜜蜂と遠雷』では、17年に直木賞と本屋大賞をダブル受賞した。同作は実写映画化され、2019年10月4日から公開中。映画公式サイト