各界で活躍する方々が、自身にとって忘れられないクラシック音楽の一曲と共に人生を語ります。今回登場するのは、早稲田大学ビジネススクール教授の川上智子さん。マーケティングの研究者である川上さんはゼミの学生たちと共に、授業の一環としてクラシック音楽における「ブルー・オーシャン」創出を目指すユニークなコンサートのプロデュースを手掛けています。なぜビジネススクールがコンサートを? 始まりは、事務所にかかってきた1本の電話でした。

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オーケストラの魅力を教えてくれた「のだめ」

 私がオーケストラの曲に興味を持つようになったきっかけは、クラシック音楽をテーマにした漫画が原作のドラマ「のだめカンタービレ」(2006年)です。

 子どもの頃は高校生までピアノを12年間習っていましたが、福岡県に住んでいてコンサートを聴きに行ったりするような機会はなかったので、クラシック音楽に関してはピアノを弾くのが好きという感じでした。それが「のだめ」を見ていて、交響曲や協奏曲など、いろんなオーケストラの曲を知ることができたんですね。もともとピアノが好きなので、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番も印象に残りましたが、「クラシックの世界ってピアノだけじゃないんだ」と気づかせてくれたのは、ブラームスの交響曲第1番です。

 ブラームスはベートーヴェンを敬愛していて、作曲家としての彼の存在があまりに偉大だったために、初めての交響曲を作るのにものすごく苦労したそうです。21年もの歳月をかけてようやく完成したのがこの交響曲第1番。第4楽章にはベートーヴェンの「第九」を思わせる有名な旋律が登場しますが、最後に希望が見えてくるような感じがするところがとても好きです。

 2009年から米国のシアトルに中学生の娘を連れて留学していたのですが、そのときに日本のものが恋しくなったんですよね。日本に残してきた夫がシアトルに来たときに「のだめ」のDVDを持ってきてくれて、娘と二人、セリフを全部覚えてしまうほど毎日のように見ていました。

 そんな私は今、早稲田大学ビジネススクールで教えているゼミ生たちと一緒に、新感覚のクラシックコンサート「クラシカエール」のプロデュースを手掛けています。ゼミの授業の一環として、私が研究している「ブルー・オーシャン戦略」の理論を当てはめ、クラシックを異分野やテクノロジーと融合させて、新しいエンターテインメントのジャンルを生み出すことを目指しています。

 なぜマーケティングの研究者の私がクラシックコンサートのプロデュースに関わることになったのか? 始まりは、ビジネススクールの事務所にかかってきた1本の電話でした。