医師の仕事に目覚めるも「治せない病気」の多さを痛感
医学部を中退して音大に入り直そうかと思ったりもしていましたが、病院実習が始まって、医者という職業の面白さにようやく目覚めました。卒業して研修医になると、座学があれほど退屈だったのがうそのように「人の命を救える、なんて素晴らしい仕事なんだ」と実感する毎日。2年目に救急の部門に配属されたときは、絶対に救急医になろうと決めていました。
自分で言うのもなんですが、相当優秀な研修医だったんです(笑)。コミュニケーションが割と得意でナースからの信頼も得られたし、手先が器用なので処置もうまかった。当直も積極的にこなし、一番多いときで月に28日担当していました。
その一方で、臨床をやればやるほど、「治せない病気」が多いことも知るようになりました。特に私が進んだ内科系では、膠原(こうげん)病やリウマチなどの自己免疫疾患をはじめ、がんや脳の病気など、挙げていくときりがないほどです。特に治せない病気の筆頭だと感じたのが腎臓病。腎臓は一度失った機能が元に戻ることはなく、悪化を遅らせることしかできません。最終的に行う人工透析も治療ではなく延命措置。しかも週に3~4回、毎回数時間チューブにつながれるというのはあまりにもつらい状況です。
こんなに近代医療は発展しているのに、なぜいまだに多くの病気が治せないのか。もっと病気のことを本気で勉強しなくては、この状況はずっと変わらないのではないか。そんな思いがどんどん強くなっていきました。
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東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター 分子病態医科学教授
取材・文/谷口絵美(日経xwoman ARIA) 写真/鈴木愛子