自然現象の秘密や美しさみたいなものを科学の言葉で表すのが私たちの仕事です。大事なのは「なるべく邪魔をせずそのまま読み取ること」。そのためにはまず完璧に実験をこなせるようにならなくてはいけませんが、それができるようになってもなお、自然現象の声を聴くのはなかなか難しい。+αの何かを込めないとたどり着けないのではないか、と感じることがよくあります。

 若かりし頃のカラヤンは相当つらい目に遭ったらしく、中でも第2次世界大戦中は、当時世界的な名声を得ていた年長の指揮者、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーに徹底的にいじめられたそうです。でも彼は決して諦めずに、待っていればいつか時は来ると耐えた。私も研究者としてのキャリアの中で苦しいときはカラヤンを思い出し、自分を奮い立たせてきました。

「つらいことがあるとカラヤンを思い出して、自分も頑張ろうと思ってきました。今もそうですね」
「つらいことがあるとカラヤンを思い出して、自分も頑張ろうと思ってきました。今もそうですね」

医学部の授業に興味が持てずオーケストラの指揮に夢中

 実はもともと医者になりたかったわけではないんです。父の強い意向で医学部に進学したものの、ひたすら教科書に書いてあることを教わるだけの授業が全然面白いと思えず、さぼってばかりいました。

 勉強そっちのけで夢中になっていたのが音楽です。カラヤンに憧れてオーケストラの指揮をしたいと本で独学したものの、音大生でもない一介の医学部生に指揮をさせてくれるところなどありません。こうなったら自分でオーケストラを作ろうと、新聞にメンバー募集を出しました。そうすると結構集まるもので、一通りの編成ができたんです。3年生から卒業するまで活動しました。

 もっとちゃんと指揮を学ばなくてはと思うようになった私は、当時新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会でよく聴いていた小澤征爾さんに指揮を教わろうと考えました。今ではあり得ないですが、当時は小澤さんの所属事務所に頼んだら、何と自宅の電話番号を教えてくれたんです。それでお電話したら10分くらい話を聞いてくれて、ご自身は忙しいからと、お弟子さんのお弟子さんくらいの方を紹介してくださいました。