指揮者なしで活動するオルフェウス室内管弦楽団とピアニストの辻井伸行さんの共演で、大好きなピアノ協奏曲の演奏を聴いてみたい。個人的に温めてきた思いが現実のものとなり、幸せな時間を過ごしたというユーグレナ社の代表取締役社長、出雲充さん。強い信念のもとで難題に挑み続けてきたバイオベンチャー経営者は今、「メンバーの意思統一を図ることには意味がなくなりつつある」と語ります。出雲さんが考える、変化の時代に対応できる組織と人のありようとは。

(上)指揮者なしのオーケストラと辻井伸行 夢の共演に震えた
(下)変化に強いのは、指示がなくても同じ方向を目指せる組織 ←今回はココ

 大学時代にバングラデシュで目の当たりにした深刻な栄養問題を何とか解決したいと思っていた私は、微細藻類ユーグレナに出合って「これだ!」と思いました。動物と植物の両方の特徴を備えるユーグレナは59種類もの栄養素を持っています。「これをバングラデシュに持っていったら、みんな絶対に喜んでくれる」と興奮しました。

 ユーグレナ社を起業し、不可能と思われていたユーグレナの食用の屋外大量培養に挑み続けてようやく成功させたものの、500社に営業に行ってもどこからも相手にされませんでした。それでも諦めず、501社目で出資が決まって、道が開けました。

 ユーグレナ社は2014年に東証1部に上場し(現在は東証プライム市場)、グループ会社を含めると一緒に働く仲間の数は現在約800人です。ベンチャー企業が成長していく過程で仲間の数が増え、会社の規模が大きくなると、意思統一を図ったり、ビジョンを浸透させたりすることが難しくなると皆さんおっしゃいますよね。私はそもそも会社が小さくても大きくても難しいと思うし、これからますます変化のスピードが速くなる時代にあっては、そうしたことはあまり意味がなくなってきていると考えています。

 ミッション、ビジョン、バリューはどの会社も作るものですが、ユーグレナ社では必要ないと思ってやめました。

「どうありたいか」を各自が考えて動く組織へ

 会社も含め、人の集団はこれまでずっと「To do」ありきで運用されてきました。「あなたはこれをやりなさい」「こういうことをしてはだめです」といったルールを作って浸透させ、みんなで同じ方向に進んでいくことを目指す。しかし、これからは会社に言われて行動を決めるのではなく、メンバー一人ひとりが「これはやりたい」「これはよくない」を自分で判断することのほうが重要だろうと思うのです。To doではなくTo be、「すべきこと」を定めるのではなく、「どうありたいか」を各自が考えて動く。そして、どうありたいかの方向性だけはメンバーで共有しましょう、というやり方です。

 はるか昔の大航海時代も、やみくもに船を進めたわけではなく、どこから見てもほとんど動かない北極星が進路を取る際の目印となりました。何を北極星とするかは会社によって当然違っていいわけですが、ユーグレナ社の場合は「サステナブルな社会をつくる」です。

「変化のスピードがますます速くなるこれからの時代、組織において『すべきこと』を定めるのはあまり意味がありません。それよりも『どうありたいか』を各自が考えて行動することのほうが重要だと思います」
「変化のスピードがますます速くなるこれからの時代、組織において『すべきこと』を定めるのはあまり意味がありません。それよりも『どうありたいか』を各自が考えて行動することのほうが重要だと思います」