ビジネスの転機で背中を押してくれたシンフォニー、大切なライフイベントを彩ったアリア…クラシック音楽を愛する各界のリーダー層が、自身にとって忘れられない一曲と共に人生を語ります。今回登場するのは、全国区の人気を誇る北海道の菓子メーカー、六花亭製菓元社長で現亭主の小田豊さん。父の跡を継いで社長に就任すると、本業を飛躍させるとともに、本格的な音楽ホールを造って名だたる演奏家のコンサートを開催するなど文化事業にも力を入れてきました。人が集い、楽しむ場をつくりだす音楽の力に魅了されていった経営者の原点は、大学時代に聴いた一曲にありました。

(上)道内に4つも音楽ホールを造ったワケ ←今回はココ
(下)流行は追わず 六花亭が大切にするのは「間口より深さ」

 六花亭には今、音楽ホールが3つあります。正確には4つかな。最初はここ帯広本店のビルの4階にあるはまなしホール。広間にひな壇と椅子を並べた、サロンコンサート用のホールです。それから札幌市内に本格的な音楽ホールが2つ。あとは、帯広市の隣の中札内村(なかさつないむら)に造った「六楽堂」。ここではヴァイオリニストの久保陽子さんが月に10日間くらい滞在して活動しています。久保さんに練習用のホールが欲しいと言われて、それなら造りましょうということになりました。

 久保さんは、不思議なご縁が続いている方なんです。

苦手だったクラシックが、「あれ、悪くないな」

 僕には3歳上の姉がいて、姉は子どもの頃からピアノ教室に通い、クラシック音楽にも関心を持っていました。片や僕のほうは同じ教室に通っていたものの、先生に「また来ないわね」って言われるような状態。レッスンが嫌で仕方ありませんでした。

 そんな姉が東京の女子大に進学して、3年後には僕も大学生になり上京。すると、東京で熱心に演奏会に通っていた姉にある時、「あなたもたまには聴きなさいよ」と誘われました。それで東京文化会館で聴いたのが、久保さんが演奏するメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲でした。

 いたく感激したとかではないと思うし、それがきっかけで熱心にクラシックを聴くようになったわけでもありません。ただ、あの哀愁を帯びた有名な旋律で始まる曲が、どこか心に刺さったんですね。子どもの頃はあれだけ逃げ回っていたクラシック音楽の世界が、全然嫌なものではなかった。振り返ると、あれがクラシック音楽との出合いになるのかなと思います。