文化事業が企業の色合いを豊かに変える

 僕はお菓子と建物をつくるのが大好きです。建物は造っていく過程で、「椅子どうする?」「この壁どうする?」「反響板どんな形にする?」とあれこれ考えるのが本当に楽しいんです。お菓子作りもそうですが、やるからにはとことん妥協せずにやりたい。それが結果として、長く続くということになると思っています。

 六花亭は本業のほかに、コンサートや落語会もやるし、美術館に「サイロ」という児童詩誌もあります。僕は今から24年前に父の跡を継いで六花亭の社長になりましたが、社長になる前から、これからは単なる「物売り」の時代じゃないなというのをずっと感じていました。

 会社にとって、お菓子を作って売ることはもちろん必要条件だけれども、十分条件として、「美術館があります」「コンサートもやっています」といったこともあったほうが、企業の色合いがぐっと変わってくる。それは常々経営者として思っています。

 コンサートをやることは全然採算に合いませんし、例えば道内の店舗に併設している喫茶室のメニューも、あの値段では赤字です。それでもお客さんが寄ってくれる、人が集まってくれるというのが僕には一番うれしいことなんです。

 ふきのとうホールは、六花亭に何かあっても、たぶんみんな壊さずに使ってくれるでしょう。自分の好きなように造るということはもちろんあるけれども、何かをやるときに社会資本という考え方は持っていなければといつも思っています。

「お菓子でも建物でも、妥協せずにやることが結果的に長く続くということにつながるのだと思います」
「お菓子でも建物でも、妥協せずにやることが結果的に長く続くということにつながるのだと思います」

――後編は8月26日公開予定です。

取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/東藤亮佑

小田豊(おだ ゆたか)
六花亭亭主、六花亭食文化研究所所長
小田豊(おだ ゆたか) 1947年北海道生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、72年に帯広千秋庵製菓(現・六花亭製菓)に入社。取締役副社長を経て、95年に代表取締役社長に就任。2015年、第13回渋沢栄一賞受賞。16年に代表取締役社長を退任し、六花亭食文化研究所所長に就任。同時に六花亭の「亭主」を名乗る。17年、第1回井上靖記念文化賞を受賞。