総合企画部の部長として多忙な日々を過ごしていた50歳のとき、大病を患い長期休養を余儀なくされた明電舎社長の三井田健さん。過酷な闘病生活の中で聴いた大学時代の思い出の交響曲は、それまでとは全く違う感慨を三井田さんにもたらしました。インタビュー後編は、経営者として大切にしている判断基準や、オーケストラでの演奏にも通じるという「いい仕事」をするための心構えについてのお話です。

(上)病で突然の長期休養 病床で聴いた「復活」
(下)「覚悟を見抜くこと」が経営者の仕事 ←今回はココ

「復活」の壮大なテーマを初めて理解できた

 50歳のときに大病を患った私は、手術を受けた後、治療の一環で長時間に及ぶつらい処置に臨みました。その間に流すことにしたマーラーの交響曲第2番「復活」は約90分の大曲ですが、処置には3時間ほどかかるため、2回聴くことができました。

 1回目に聴いたときは、痛みに耐えながら、大学時代に無我夢中で演奏したときのことを思い出していました。2回目は少し体が楽になり、気分も少し前向きになっていて、最初とは全然違う曲を聴いているような、不思議な感覚を覚えました。

 「復活」は、生と死、死からの復活がテーマの壮大な曲です。第1楽章が約20分、第5楽章が約35分と長くて、間の第2、第3、第4楽章は間奏曲のような位置づけにあります。第1楽章は、死を予見するかのように重々しく、作曲家自身も「葬送行進曲」と言っています。2回目に聴いたときも、第1楽章は重苦しい気持ちのままでした。でも、それに続く美しい間奏曲の楽章を聴いているうちに、どんどん気分が明るくなっていったんです。

 第5楽章は合唱が加わり、「死とは生きるため、再びよみがえるためにあるものなのだ」ということが歌い上げられます。そのとき、マーラーがこの曲で伝えたかったことが初めて分かった気がしました。音楽が、文字通り生きる力を与えてくれることを実感した瞬間でした。

 それ以降はもう気弱になることはなくなり、「生きるぞ」というほうへ気持ちは向かっていました。

「重苦しい『葬送行進曲』に始まり、『死からの復活』を歌い上げるクライマックスへ。まさにマーラーの思惑通りに、私は心を動かされていました」(三井田健さん)
「重苦しい『葬送行進曲』に始まり、『死からの復活』を歌い上げるクライマックスへ。まさにマーラーの思惑通りに、私は心を動かされていました」(三井田健さん)

 9カ月の入院生活を終えて、元の職場に復帰しました。実は手術をすることになったとき、当時の社長に電話をして役職から外してほしいと伝えました。でも社長は「部長のままでいいよ」と言ってくれたばかりか、その後、役職の等級を上げる内示までもらったんです。責任から解放したらかえって病が進行しかねない、「ちゃんと直して戻ってこい」というメッセージが闘病の励みになると、あえて計らってくれたのだと思います。