各界で活躍する方々が、自身にとって忘れられないクラシック音楽の一曲と共に人生を語ります。今回登場するのは、明電舎社長の三井田健さん。オーケストラでヴァイオリンを演奏することに熱中した大学時代、難曲として知られるマーラーの交響曲に仲間と取り組んだことが、今も鮮やかな記憶として残っているそうです。そして、その曲とは50歳のとき、思いもかけない過酷な状況で「再会」することになりました。

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(下)「覚悟を見抜くこと」が経営者の仕事

 クラシック音楽の素晴らしさは、同じ曲でも聴くたびに全く違ったものに感じられることだと私は思っています。

 例えば小説は、作者が書いた文章を直接読むことができます。でも音楽の場合、作曲家は伝えたいことを楽譜に起こして、それを演奏家が演奏し、私たちが聴く。つまり、作者と受け手との間にワンクッションが入るわけです。そうすると、指揮者や演奏家の解釈によって作者の意図の伝わり方が変わってきますし、聴く人のその時々の気分によっても、曲への印象が左右される。まさに一期一会なんですよね。

 落ち込んでいるのか、うれしい気分なのか。若いのか、年齢を重ねているのか。前にも聴いたことのある曲が、自分の状態が変わるとここまで違ったものになるのかと驚かされます。そのことをまざまざと感じたのが、マーラーの交響曲第2番「復活」でした。

曲と本番の会場に引かれて「ジュネス」に参加

 「復活」に最初に出合ったのは大学生のときです。4歳のときにヴァイオリンを習い始め、高校時代に一時中断しましたが、大学に入ってもう一度本格的にやろうと慶応義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラに入団しました。

 ワグネルの活動と並行して参加したのが、「ジュネス」という愛称で知られた青少年音楽日本連合オーケストラ。年1回の演奏会に向けて毎回オーディションでメンバーが選ばれ、主に首都圏の大学オーケストラに所属する学生が集まってきました。ジュネスの活動はNHKがサポートしていて、演奏会の本番はNHKホールで開催。その様子は教育テレビ(現在のEテレ)で生中継されました。

 大学4年生だった1977年にジュネスで「復活」を演奏すると知り、初めてオーディションを受けました。というのも、3年生のときにワグネルでマーラーの交響曲第1番「巨人」を演奏して、マーラーが好きになったからです。しかも、「復活」は約90分にも及ぶ大曲。アマチュアの学生が演奏できる機会は他にまずありませんし、憧れのNHKホールで演奏できることも魅力でした。

 7月の本番に向けて約半年間、渋谷にあったNHKのスタジオで毎週のように練習を重ねました。それが終わるとみんなで居酒屋へ。初めて出会ったメンバーとも親しくなっていきました。