シューベルトの歌曲『魔王』を夢中で聴いた中学時代、一度は音楽の道を思い描いたことが、「意思決定」の重みを意識する出発点になったというビジョナル執行役員CHRO(Chief Human Resource Officer)の三好加奈子さん。自身のキャリアでは、MBA留学時代に広がった組織や人の成長への興味が、その後の仕事の方向性に影響を与えることになりました。40代半ばであえてビズリーチというスタートアップへの参加を決めた理由や、人づくり、組織づくりの仕事に込めた思いを聞きました。

(上)思春期の心とらえた「魔王」 物語を伝える声の力に驚き
(下)ビジョナルCHRO 40代でスタートアップを選んだ訳 ←今回はココ

大人になって始めたからこそ感じる歌の魅力

 中学生のときに歌の道に進む夢を抱いたものの、自分の意思でそちらには行かないと決めて以降、クラシックはずっと聴いて楽しむものでした。月日は流れて30代半ば、マッキンゼーで中途入社の同期として出会った武井涼子さんにかつての歌への思いを話したところ、「私の歌のレッスンを一度見に来てみたら?」と誘われました。で、見学に行ったら、「よかったら習ってみる?」。そんな流れで私もレッスンに通うことになり、もう10年以上続いています。

 歌のレッスンは、コロナ禍になる前は月3回を基本として通っていました。発表会の前になるともっと回数が増えますし、家では大きな声を出せないので、区営の音楽室などを借りて一人練習に励むこともあります。忙しく仕事をしながら、これだけ長く続いているのはなぜかと考えてみると、やってみたかったことをついに学べる機会が得られた楽しさもありますが、大人の習い事としてすごくいいなと思ったんです。

 歌うときには、腹式呼吸で体全体を使います。どんなに仕事で頭がいっぱいだったり、心配事があったりしても、日常とは違う場所で歌うことだけに集中し、歌に合わせた呼吸をすることで意識が切り替わり、新たなエネルギーを得ることができます。

 そしてもう一つよかったと思うのが、自分の成長を感じられることです。

「歌っているときは他のことを全部忘れるので、オンとオフの切り替えができる貴重な時間でもあります」(ビジョナルの三好加奈子さん)
「歌っているときは他のことを全部忘れるので、オンとオフの切り替えができる貴重な時間でもあります」(ビジョナルの三好加奈子さん)
発表会のステージの様子。右下の赤い衣装の写真は5年前にヴェルディのオペラ『椿姫』のアリア「ああ、そは彼の人か~花から花へ」を歌ったときのもの。苦労しながら大曲に取り組んだことが思い出深いという
発表会のステージの様子。右下の赤い衣装の写真は5年前にヴェルディのオペラ『椿姫』のアリア「ああ、そは彼の人か~花から花へ」を歌ったときのもの。苦労しながら大曲に取り組んだことが思い出深いという

 年齢を重ねると、仕事でも生活でもいろんな経験を積んできているので、「こんなことができるようになった!」みたいな大きなステップを上る機会って少なくなりますよね。でも、歌は初心者からのスタート。練習を続けているうちに、それまでできなかった表現があるとき自然にできるようになる瞬間が来るんです。それに対して、先生や周りの人からも「うまくなったね」「よかったよ」と客観的に評価してもらえたり、フィードバックをもらえたりする。発表会など成果を披露する機会が目標にもなります。

 自分自身が成長の実感を得られること、人や組織の成長に関わることは、仕事の上でも私にとって大きなテーマです。