各界で活躍する方々が、自身にとって忘れられないクラシック音楽の一曲と共に人生を語ります。今回登場するのは、ARIA世代の人気イラストレーター、五月女ケイ子さん。一度見たら忘れられない独特のインパクトと味わいを持つ絵でおなじみの五月女さんは、ちょっぴりユニークな「音楽あふれる家庭」で育ったのだとか。(上)では、大好きなピアノにまつわる10代の思い出や、独学でイラストレーターを目指した経緯について聞きました。

(上)話すのは苦手、ピアノなら内面を出せた ←今回はココ
(下)仕事の依頼を「ちょっと飛び出す」楽しさ

誰かが歌えば自然にハモりが始まる合唱家族

 私の感情過多なイラストのルーツは、きっとクラシックにあるんだろうなあと思っています。

 休日は家族そろって歌を歌うのがお約束。そんな家で育ちました。両親の出会いは地域の合唱団で、父は指揮者をしていたそうです。母は昔から歌うことが好きで、すごい美声の持ち主。『NHKのど自慢』に出たりしていました。

 唱歌に童謡、クラシックの合唱曲……家の中には歌声が絶え間なくあって、誰かが歌えば自然にハモるよ、みたいな感じ。私がピアノを習い始めると、伴奏をするようになりました。

 実は私もテレビに出たことがあるんです。一般人が出場する家族対抗の歌合戦の番組で、母と姉と私で「犬のおまわりさん」を歌って優勝しました。私は当時4歳。審査員の笠置シヅ子さんやゲストの和田アキ子さんにかわいいわねとちやほやされて、そこが人生の絶頂期でした(笑)。

 母は映画の『サウンド・オブ・ミュージック』が大好きで、家族であれを目指している感がありました。まあ、ちょっといろいろ違ってはいるのですが、私は3人姉妹で、みんな「歌う日常」が普通だと思って過ごしていました。

 毎週日曜にNHKラジオの『音楽の泉』というクラシックの番組を聴くのもならわしでした。リビングにすごく大きなスピーカーがあって、南向きの窓から光が当たって……ひなたぼっこをしながら音楽を聴くのは、今思うと至福の時間だったなあと印象に残っています。曲や演奏家にこだわる感じはあまりなくて、ただただ音楽が好きという家でした。

 私は話すことはあまり得意な子ではなかったのですが、歌ったりピアノを弾いたりするときは「自分を出していいんだ」と思っているところがありました。だから、発表会でも気づくといつもものすごい「熱演」。全身をダイナミックに揺らして曲に入り込んじゃうんです。そもそも両親がいつも体全体を使って歌うから、それが自然のことだったんですよね。でもあるとき歌っている様子を男子にからかわれて、「はっ、私はそんなにアクション大きめだったのか!」と初めて気づきました(笑)。

 思えば自分を表現する体験は音楽が始まりだったかもしれません。それと絵を描くのも子どもの頃から大好きで、チラシの裏にNHKの人形劇のキャラクターや『キャンディ・キャンディ』『ときめきトゥナイト』の登場人物などを延々と描いていました。