音楽はあふれるほど周りにあった一方で、子どもの頃の私が触れられる娯楽はものすごく偏っていました。というのも、親に見せてもらえないテレビが多かったんです。ドリフもだめだし、トップテンもベストテンもだめ。山口のいなかに住んでいたので映画館では邦画しか上映されず、金曜ロードショーも見られなかったから洋画のことはほぼ知らず。『E.T.』とか噂に聞くけれどなんだろう? という状態です。

 1980年代に『ナイトライダー』っていうアメリカの特撮ドラマがテレビで放送されていてすごくはやっていたんですね。それも友達の話で知って、「へえ~車がしゃべるドラマがあるんだ~」って。でも車がしゃべるってどういうことか分からないから、想像で補っていました。

大好きなピアノでまさかの傷心…

 ピアノは好きでずっと続けていたのですが、中学校に入って反抗期にさしかかると、「クラシックなんてダサい!」みたいな気持ちになってあまり弾かなくなりました。でも、中学3年生のときに山口から横浜に引っ越して、高校に入ったらふと、「やっぱりピアノは楽しいし、音大に行こうかな」と思ったんです。それで音大受験専門の先生のところへ行ったら、あっさり「無理です」。ショックでした。

 もともと練習嫌いで、いかに短時間で要領よく練習して次の曲に行くか、みたいなことを考えるタイプだったので、それがたたったのかもしれません。でもまさかそんなにはっきりダメ出しされるとは思ってなくて。自意識過剰だったんでしょうね。その後もピアノのレッスンは続けましたが、全然楽しいと思えなくなっていました。

 大学生になってもうレッスンにも行かなくなっていたある日、何気なくドビュッシーの「月の光」の楽譜を見て、弾いてみようと思い立ちました。子どものときはモーツァルトやショパンが好きでしたけれど、その頃ドビュッシーやサティといったフランス音楽をちゃんと知って、興味を持っていたんですね。それで弾いてみたら、なんて美しい、いい曲なんだろうと。