歴史もあるいい会社なのに、自分たちでダメにしちゃっている。それがもったいないという思いは強くありました。だって、ずーっと赤字でしたからね。まあ、逆から見れば「あいつは好き勝手やっているくせに何を言っているんだ」なんですけど。

「絶対辞めるな。そのかわりやるべきことはやれ」

 上司とケンカしたり、干されたりするたびに「今度こそ辞めよう」と思うんですけど、踏みとどまれたのは、僕に本作りを教えてくれた大先輩のおかげです。「お前のことが嫌いな奴はお前より絶対先に定年になる。だから絶対辞めるな。そのかわりやるべきことはちゃんとやれ」と言われました。

 社内では一匹おおかみの自分が、まさか社長になるとはまったくの予想外でした。僕は役員もやっていないんですよ。ただ、会社の業績が厳しさを増す中で、2016年にオーナーが支援先を探す決断をした時に、編集の仕事を兼務しながら経営企画室長という肩書で交渉の窓口をやることになった。その間、リストラで何十人も辞めてもらうなど相当厳しいお願いもしたので、新会社に経営権が移った時には、僕も辞めなければいけないと思っていました。ところが、新オーナーからいきなり「社長をやってほしい」と言われて。さすがにお断りするわけにはいきませんでした。

岩野さんがライナーノートを執筆したCDと、編集を手掛け、自社から出版した朝比奈隆さんの書籍。その隣は所有するブルックナーの交響曲第7番のスコア。「本当は8番のスコアに朝比奈さんのサインをもらってあるのですが、あまりの宝物でしまい込んであり、すぐには見つかりませんでした」
岩野さんがライナーノートを執筆したCDと、編集を手掛け、自社から出版した朝比奈隆さんの書籍。その隣は所有するブルックナーの交響曲第7番のスコア。「本当は8番のスコアに朝比奈さんのサインをもらってあるのですが、あまりの宝物でしまい込んであり、すぐには見つかりませんでした」