出社したらすぐ外出、国会図書館通いの日々

 経済誌は激務のガイドブックに比べると、割と暇でした。というのも僕は経済は不得手で、企画を出しても全然通らないんです。それに当時の編集長は働き者で、自分だけで何十ページも作っちゃう(笑)。その頃の僕は、朝会社に来てタイムカードを押したら、ホワイトボードに「外出 国会図書館」と書いて毎日のように外出。戦時中に満州で発行されていた新聞のマイクロフィルムを20年分くらい、目を皿のようにして読んでいきました。もちろん夕方帰ってきてちゃんと会社の仕事はしていましたよ。

 94年と95年は中国へ現地調査にも行きました。94年はゴールデンウイークを利用して、指揮者の小澤征爾さんが生まれ故郷である中国・瀋陽のオーケストラを指揮するドキュメンタリー番組制作の一行にもぐりこんだ。95年は、終戦を迎えた地ハルビンに朝比奈さんを50年ぶりに連れていくという大阪のテレビ番組の企画にリサーチャー的な立場で同行。これは10日くらい会社の休みを取りました。

 こうして99年にようやく本を書き上げました。といっても出すあてはありません。そこで、音楽之友社にいる大学時代の友人に相談したところ引き受けてくれて、『王道楽土の交響楽』というタイトルで出版されました。これが出光音楽賞をいただき、大宅壮一ノンフィクション賞の最終選考にも残った。この頃から音楽関係の仕事が激増します。

 ただ、僕がおおっぴらに「課外活動」をやることに対し、会社では陰口をたたく人もたくさんいました。

第10回出光音楽賞を受賞した岩野さんの著書『王道楽土の交響楽』。歴史に埋もれていた満州の音楽史を丹念に掘り起こし、日本のオーケストラのルーツを見出した長編ノンフィクション
第10回出光音楽賞を受賞した岩野さんの著書『王道楽土の交響楽』。歴史に埋もれていた満州の音楽史を丹念に掘り起こし、日本のオーケストラのルーツを見出した長編ノンフィクション

――後編は6月27日公開予定です。

取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/鈴木愛子

岩野裕一
実業之日本社代表取締役社長・音楽ジャーナリスト
岩野裕一 1964年、東京都生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、87年に実業之日本社に入社。旅行ガイドブック、経済誌、一般書、実用書、文芸書の編集に携わる。第二編集本部長兼文芸出版部長兼アウトドア出版部長兼ライツ・編集総務部長(役員待遇)、第二編集本部長兼文芸出版部長兼経営企画室長(同)を経て、2016年から現職。著書に『王道楽土の交響楽』(音楽之友社、絶版)、『朝比奈隆 すべては「交響楽」のために』(春秋社)などがある。