ビジネスの転機で背中を押してくれたシンフォニー、大切なライフイベントを彩ったアリア…クラシック音楽を愛する各界のリーダー層が、自身にとって忘れられない一曲と共に人生を語ります。今回登場するのは、実業之日本社社長の岩野裕一さん。社内では一匹おおかみだったという岩野さんは2016年、経営再建の使命を帯びて社長に就任。その仕事人生には、クラシック音楽が深く関わっていました。

(上)「その時、大聖堂が現れた」 ←今回はココ
(下)岩野裕一 2回干されながら社長に オケから経営学ぶ

 あれは忘れもしない、1984年3月7日。大学1年生だった僕はユーゴスラビア出身の指揮者、ロヴロ・フォン・マタチッチとNHK交響楽団の演奏会が行われるNHKホールの2階席にいました。84歳のマタチッチは長年N響と共演を重ねていましたが、この時は9年ぶりの来日。といってもそれはすべて後で知ったことで、当時の僕は、指揮者のことも、その日演奏されるブルックナーの交響曲第8番のことも、ほどんどよく分かっていませんでした。

よぼよぼのおじいちゃんが手をふっと上げると…

 オーケストラに続いてステージに現れたのは、体はゴリラのようにでっかいけれど、足取りもおぼつかないよぼよぼのおじいちゃん。指揮棒を持っていませんでしたが、これも後で聞くと、もう握る力がなかったそうです。

 ところが、そんなおじいちゃんが手をふっと上げるや、オーケストラからどかーん! という爆音が鳴り響いた。ぶっ飛びました。ヨーロッパに行ったこともないのに、NHKホールのオーケストラの上に、教会の大聖堂がバーンと立ち上がったのが見えました。初めて聴く曲で、予備知識なんて何もありません。だけど、「いったい何が起こったんだ!?」と、腰が抜けました。

 もともとクラシックは父が趣味で聴いていて、家にはレコードがたくさんありました。といっても僕は、親が好きなものは逆に好きにならないタイプ。ところが高校時代の初恋の子がいわゆる「クラシックオタク」で、仲良くなりたいという不純な動機で聴き始めたら、だんだん面白く感じるようになりました。