演奏家と観客が、音楽を通してつながる体験

 コンサートに出演してもらっているのは、やる気のある若手の演奏家が中心です。主催者が提供してくれた場所に身一つで出掛けていって、どんな条件の下でも演奏し、目の前のお客さんに音楽を届ける。これはただ呼ばれたところへ弾きに行くという意識では通用しません。みんな鍛えられますし、本当に力のある人たちばかりです。クラシック音楽のことは分からない、ちゃんと聴くのは初めて……そんな人たちが、理屈抜きで心を揺さぶられて涙を流したり、感動にほおを紅潮させたりする。演奏家という人間と観客という人間が、音楽を通してつながっていく瞬間です。それが音楽の最大の魅力ではないでしょうか。

 間近に聴いたヴァイオリンの音色に衝撃を受け、初めてクラシック音楽の素晴らしさを肌で感じた……だからといって、40年身を置いたビジネスの世界から離れて音楽の財団を立ち上げるなんて、思い切った行動に見えるでしょうか。

 私自身は、ビジネスの世界にずっといたいなどとは全く思っていませんでした。第一線で働いていた50歳の頃から、「人生最後の直線距離は、これまで生かされてきた社会への恩返しのために走りきらなくてはいけない。そのためには何をすればいいか」ということを考えていたんです。

「目指すのは、1年に全国で100万人の人に音楽を届けること。すべての都道府県で毎日どこかでコンサートが開かれていて、そこへ行けば音楽に触れ、人とつながれる。それが私の目標です」
「目指すのは、1年に全国で100万人の人に音楽を届けること。すべての都道府県で毎日どこかでコンサートが開かれていて、そこへ行けば音楽に触れ、人とつながれる。それが私の目標です」

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取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/鈴木愛子

蓑田秀策
一般財団法人100万人のクラシックライブ代表理事
蓑田秀策 みのだ・しゅうさく/1951年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、1974年日本興業銀行入行。ニューヨーク、ロンドン勤務を経て、2003年にみずほコーポレート銀行執行役員、04年常務執行役員に就任。日本におけるシンジケートローン市場の整備を行った。07年、投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に入社、08年にKKRジャパン代表取締役社長に就任。14年12月に同社退職。15年に一般財団法人100万人のクラシックライブを設立した。オプトホールディング取締役、東横イン取締役。