18歳が目の前で奏でるヴァイオリンの音色に圧倒

 18歳の岡本誠司くんというヴァイオリニストの演奏を2メートルくらいの近さで聴いたのですが、これは今まで聴いていたクラシックとはまるで違うものだと思いました。何の曲だったかも覚えていないのですが、ヴァイオリンの音色が体にダイレクトに響いてくる、その感覚に圧倒されたんです。そんな体験は初めてでした。もうね、18歳の演奏に「参りました」ですよ。ちなみに彼は2年後の2014年に、バッハ国際コンクールでアジア人として初めて優勝します。

 私には専門的なことは分かりませんが、目の前にいる演奏家と観客がお互いの心を通い合わせて、そこに生まれる空気そのものが音楽だと思っています。クラシック音楽が持っている力は素晴らしいのに、出し方が一方通行では、素材の良さがたくさんの人に届いていきません。コンサートホールに来てと言うばかりではなく、もっと人々のところへ伝えに行かなくてはいけない。そう思ったので、「100万人のクラシックライブ」ではどこにでも行って演奏するんです。

 2020年1月、東急電鉄と組んで初めて駅のコンコースでコンサートをやりました。東急の現場の人たちは当初、「駅に来る人は忙しいし、クラシックはみんなあまり足を止めないですよ」「椅子は10脚も並べれば十分ですよ」と言っていたんです。でもふたを開けたら、100人ぐらいの人だかりができる盛況ぶりでした。ヴァイオリンの演奏が始まると、音にどんどん引き寄せられて、しかもみんな聴き入って動かないんです。生の演奏にはそれだけの力がある。

東急田園都市線の青葉台駅で行われたコンサートの様子。至近距離で聴く生演奏の迫力が、聴く人を引きつける(写真提供/100万人のクラシックライブ)
東急田園都市線の青葉台駅で行われたコンサートの様子。至近距離で聴く生演奏の迫力が、聴く人を引きつける(写真提供/100万人のクラシックライブ)