ビジネスの転機で背中を押してくれたシンフォニー、大切なライフイベントを彩ったアリア…クラシック音楽を愛する各界のリーダー層が、自身にとって忘れられない一曲と共に人生を語ります。今回登場するのは、一般財団法人100万人のクラシックライブ代表理事の蓑田秀策さん。メガバンクや投資ファンドなど、金融業界の最前線を走ってきたビジネスキャリアから一転、現在はクラシック音楽を至近距離で楽しめる機会を増やしたいと、全国各地でコンサートを開く活動をしています。60歳を過ぎるまでクラシックが苦手だったという蓑田さんを変えた出来事とは?

(上)間近に聴いた弦楽器の響きがクラシック嫌いを一変させた ←今回はココ
(下)一線を退く50歳からの生き方が「人生の豊かさ」決める

 シャコンヌは、ヴァイオリンの独奏曲です。10分くらいある長い曲なのですが、美しく哀愁のある旋律が、寄せては返す波のように上がったり下がったりを繰り返します。それを聴いていると、自分の人生を表しているようだなと思うんです。

 盛り上がるところは、人生の喜びの記憶そのもの。かと思うとすっとトーンが下がって、幸せな時間はそう長くは続きません。その後は不安で、つらい気持ちを表すような旋律が続きます。そこを一生懸命こらえていると、また力が湧いてきて、人生の新たな転機が訪れる。そうして最初の力強い旋律が戻ってきて、でも再び小康状態が続いて、また劇的な展開になって……。一度聴いたら忘れられない曲です。これまでに何度聴いたか分かりません。

音楽と自分がどんどん一体化していく感覚

 初めて聴いたのは確か2016年、仙台で行った「100万人のクラシックライブ」のコンサートでした。私が2015年に設立した一般財団法人100万人のクラシックライブは、全国のお寺やビジネスホテルのロビー、病院、カフェ、古民家、社会福祉法人、自動車販売店、駅、塾など、ありとあらゆるスペースでクラシックコンサートを開催しています。1回の観客は50人程度で時間は1時間、料金は1000円。演奏するのは弦楽器を中心とした実力のある若手音楽家です。大人も子どもも赤ちゃんも、誰もが気軽に、至近距離で生の演奏の魅力に触れることができます。

 仙台でシャコンヌを聴いて引き込まれたとき、コンサートを開く場所を提供してくれたアレンジャー(主催者)の奥さんが、ものすごく泣いていたんですよ。リハーサルで泣いて、本番でまた泣いて。それはもう最初から最後までずっとです。「どうしてそんなに泣いたの?」と聞いたら、「自分の人生そのものだと思った」と。そう言われて、確かにその通りだと感じたんです。

 何気なく聴いているときには、単に「ああ、きれいだな」と思う旋律も、少し自分のストーリーと重ね合わせると、音楽と自分がどんどん一体化してくるんですよね。音楽の聴き方に「こうでなくてはいけない」ということはなくて、100人いたら100通りの解釈がある。1000回以上コンサートをやっていて、そのことをいつも感じます。

 でも私は60歳を過ぎるまで、クラシック音楽は嫌いでした。