各界で活躍する方々が、自身にとって忘れられないクラシック音楽の一曲と共に人生を語ります。今回登場するのは、ICT技術を活用した学校向けの授業支援クラウドサービスを提供するコードタクト代表取締役の後藤正樹さん。プロの指揮者という別の顔も持っています。教育事業において長年向き合ってきた研究テーマがクラシックの世界にも通じると考えた後藤さんが、オーケストラの演奏会で行ったユニークな試みとは?

(上)会社経営×プロ指揮者 コードタクト後藤正樹の二刀流 ←今回はココ
(下)「勉強についていけない子」を生む授業、ITで変えたい

 エンジニアである僕が2015年に起業したコードタクトは、ICT技術を使って学びのあり方を革新し、個の力を高める「協働学習」を支援する会社です。学校向けの授業支援クラウド「スクールタクト」、企業向けのジョブトレーニング支援クラウド「チームタクト」という2つのサービスを提供しています。そして僕は会社経営やサービス開発の傍ら、オーケストラの指揮者もしています。

 教育と音楽、2つのことをやっているのは、突出した能力がないからです。もし才能があったら、一つの道に専念していると思います。でも、1つではないからこそお互いが作用し合い、結果的にビジネスも音楽活動も、より充実したものになっていきました。プロの指揮者として活動できるようになったのも、仕事で知り合った学校の先生が、「プログラマーなんだけど指揮もやっている人がいる」と、僕のことを知人の指揮者に紹介してくれたことがきっかけでした。

打楽器アプリで、聴衆がオーケストラの演奏に参加

 現在のコードタクトは教育事業を行う会社ですが、起業した当初は「音楽と教育をITでつなぐ」をテーマにした活動をよくやっていて、年に1回、社内のメンバーでメディアアートの作品を作っていました。その一つが、ラヴェルの「ボレロ」にまつわる試みです。僕が指揮者を務めている琉球フィルハーモニックオーケストラの演奏会でボレロを演奏した際、自社で開発したスマートフォンの打楽器アプリを使って、お客さんに演奏に参加してもらいました。

 ボレロは、スネアドラムが刻むリズムから曲が始まって、メロディーが加わってからも、同じリズムが終わりまで延々と繰り返されます。そのリズムに合わせてお客さんがアプリの画面をタップすると、振動(データ)がデジタル映像に変換され、ステージ上の巨大なスクリーンにリアルタイムで投映される仕掛けです。

ボレロの演奏に合わせて聴衆がスマホ画面をタップすると、そのデータがスクリーン上にデジタル映像となって投映された。オーケストラが奏でる音も同様に「視覚化」され、音楽とシンクロしながら映像が刻々と変化していく(写真提供/後藤さん)
ボレロの演奏に合わせて聴衆がスマホ画面をタップすると、そのデータがスクリーン上にデジタル映像となって投映された。オーケストラが奏でる音も同様に「視覚化」され、音楽とシンクロしながら映像が刻々と変化していく(写真提供/後藤さん)

 僕は「主体的に学ぶこと」をずっと研究しているのですが、音楽においても「主体的に聴くこと」はすごく大切です。でもクラシックの場合、音楽の構造が複雑で把握しづらいところがあります。