「チーム解散は寂しい」と言ったら笑われ…
ある日、米国人の上司と先輩2人の4人で夕食を食べていたときのこと。上司が「僕はもうすぐアメリカに帰ることになる」と言ったので、「この4人はすごくいいチームだからバラバラになるのは寂しい」と私が返したら、3人に大笑いされたんです。「涼子は何を赤ちゃんみたいなことを言っているんだ」と。
みんなそれぞれ自分のキャリアのことを考えていたらこうして偶然集まり、いいチームができた。ただそれだけのことだし、だからこそ今こうしてここにいることが大事なんだというのです。「それで、これから君はどうしたいの?」。そう聞かれて、はっとしました。電通にいたときは、キャリアはある意味会社が決めてくれるものでしたから、考えてみたこともなかったのです。
今の仕事が楽しくて居心地がいいからといって、ずっとこのままでいることが本当に幸せかは分からない。これからは自分で決めなくてはいけないんだ。そんなふうにキャリアに対する自覚が芽生えたとき、いずれは代理店からクライアント側に移って、ブランドをつくり育てる仕事がしたい、そのためにも留学してMBAを取りたいと思うようになりました。
その後、いくつかの職場を経て、2003年に留学すると決意。ところが準備を進めていた02年に、父が亡くなったんです。私は一人っ子。母を日本に残していくことはできませんでした。
留学する計画が消えてしまったら、30代前半で既に何社か転職している私は、当時の基準では短期間で仕事を転々とするジョブホッパーにしか見えません。行き先が本当になくなり、キャリアが断たれてしまったと、途方に暮れました。
そんな暗黒時代からどうにか立ち直ったのは、当初の計画から3年遅れで、やっぱり留学しようと決めて行動してからです。この留学が、その後の音楽との関わりをも大きく変化させることになりました。
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⇒(下)留学で開けた新世界 マーケティングと音楽には共通点
取材・文/谷口絵美(日経クロスウーマン ARIA) 写真/鈴木愛子
グロービス経営大学院准教授/オペラ歌手