一から作り上げた『カルメン』に感動 オペラってすごい

 私が通っていた東京学芸大学付属高校には当時、部活動としてオーケストラ班と合唱班からなる音楽部があって、年に1回、オペラを上演していました。もともと歌うことは好きで、中学時代も合唱部にも参加していたので、高校では音楽部の合唱班に入ることに。とはいえ当時の私はオペラなんて聴いたこともありませんでした。

 1年生は合唱の一員としてオペラに参加するのですが、そのときの演目が、ビゼー作曲のオペラ『カルメン』でした。

 演奏だけでなく、衣装や大道具作りから舞台演出、日本語訳詞上演だったので歌詞の翻訳まで全部高校生が担当します。半年以上かけて一から舞台を作り上げていく過程を目の当たりにし、本番で2年生の先輩がステージに立ってソリストを務める姿を見て、「オペラってなんてすごいものなんだ!」と、すっかり魅了されてしまいました。

 2年生になったときには自分がソリストとしてメインキャストを務めたのですが、その経験よりも初めてオペラというものを知った1年生の『カルメン』のほうが、はるかに強く印象に残っています。

 『カルメン』の本番が終わった後、海外の有名なオペラ歌手が来日してオペラの名曲を歌う「オペラ・ガラ・コンサート」をサントリーホールでやると知り、母親に頼み込んでチケットを買ってもらって聴きに行きました。そこで、出演者の中では若手だったルチア・ヴァレンティーニ=テッラーニさんというイタリアのメゾソプラノ歌手の歌声に心をつかまれてしまった。目の前を音符がきらきらと舞い、世界が変わったように感じたのを今でも覚えています。

 オペラへの憧れは、自分もこんなふうに歌いたいという具体的な願望へと変わっていきました。