「クラシック音楽の家」に生まれながらも、クラシックに興味を持ったのは40歳を過ぎてからという湯山玲子さん。クラブミュージックとの間に共通項を見いだした独自の発想とセンスで、既成の枠を軽々と飛び越えた、新しいクラシックの聴き方を提案しています。多彩なジャンルで縦横無尽に活動する湯山さんの原動力は「怒り」。そして、真面目にコツコツ頑張りがちなARIA世代には「もっと『ちやほや欲求』を利用すべし」と活を入れます。ちやほや欲求とは一体?

(上)私がクラシックを「愛する人」を警戒する理由
(下)ミドル世代はコツコツより「ちやほや」が大事 ←今回はココ

廃トンネルの中でクラシック 「爆クラアースダイバー」

 私が今、クラシック音楽の新しい聴き方を提案する「爆クラ」をやっているのは、クラシックを愛していないからこそ、クラシック音楽の可能性、ブルーオーシャンが見えるからです。

 クラシック業界は聴衆がどんどん高齢化して、このままでは先細るばかりです。でも、内側にいて「業界の住人」になってしまっている人たちは、事情が分かるからこその現実的な縛りから、クリエイティブな発想ができません。でも私は外様だから、いろいろ考えつく。

 最近特に力を入れているのが「爆クラアースダイバー」です。「クラシックを野山に放つ」というコンセプトで、クラシックを聴く場所の固定概念を外し、さまざまな土地の自然や歴史、風土などと共に音楽を体感してもらっています。

 2019年には愛知県の廃トンネル4基を使って、観客が移動しながら音楽を聴くというイベントをやりました。暗闇の中で響く打楽器演奏に人間の原初的な音楽体験を味わったり、女声合唱によるミサ曲を荘厳な雰囲気の中で聴いたり。最後はトンネル全体を最強のオーディオ空間にした選曲DJで、その抜群の音像に大いに感動しました。

 観客はクラシック音楽に親しんでいなくても、「トンネルで聴くのは面白そう」と足を運んでくれます。一方で、ベートーヴェンやモーツァルトは知っていても、プーランクやメシアン、ジョン・ケージといった近・現代音楽家の作品を、普通の人はまず知りません。でもこういった名曲たちは、トンネルのような「環境」と掛け合わせたらアート的な体験として面白くなるんじゃないかという読みがありました。

 私は「シューベルトよりも現代音楽のほうが絶対に人気が出る」と10年前から言っていたのですが、「現代音楽って誰が聴くんですか?」とクラシック業界の人からいまだに聞かれますし、「俺はベートーヴェンをずっと聴いてきた。現代音楽はクラシックじゃない」などと言う旧来的なクラシックファンもいます。

 でも、今はYouTubeで何の情報も持たずに曲を再生して、例えばヒップホップのファンが「この曲かっこいいけど、 武満徹っていう人が作ったんだ」みたいなことが起こる。音楽の選ばれ方、広がり方が昔とは全然違うんです。

 爆クラアースダイバーは、地方創生ともすごく相性がいいですし、コロナが落ち着いたら実現したいアイデアはたくさんあります。滝の音と一緒に音楽を聴いたり、野山に放つのだから、田んぼの中で演奏したり。霧の中や雪の中で北欧の作曲家、シベリウスとか聴きたくないですか?

「爆クラアースダイバーで温めている企画、まだまだたくさんあります!」と湯山さん。2022年5月3日には、爆クラ100回を記念したイベントを渋谷PARCOで開催予定
「爆クラアースダイバーで温めている企画、まだまだたくさんあります!」と湯山さん。2022年5月3日には、爆クラ100回を記念したイベントを渋谷PARCOで開催予定