感性を言語化する力を父に鍛えられた

 父は作曲のために生きているようなところがあって、家族のことなど二の次でしたね。とにかく音に敏感で、私が洋楽を聴いていると「うるさい!」と雷が落ちる。だから家で音楽を聴くときはすべてヘッドホンでした。食事中もテレビは禁止、レストランに行ってもBGMが気に入らないと消してもらうわけです。

 そんな父は、私のセンスを信頼してくれているところがありました。ピアノ曲集「お菓子の世界」を作曲していたのは私が小学生の頃。曲を途中まで作って、先の展開をどうするか迷ったとき、異なるパターンを弾いて「どちらの響きのほうがいい?」「どっちのメロディー進行のほうがかっこいい?」と私に聞いてくるんです。それをよくジャッジしていました。

 ただし、「こっちがいい」と言うだけでは父は納得しません。いいと思った理由を述べないといけないんです。音をどう感じたか必死に考えて、言葉にして説明する。今にして思うと、「感性を言語化する力」の道場でしたね。それが今の、ものを書いたり企画したりする仕事につながっていないこともない。

 私が回り回ってクラシックに興味を持ったのは40歳を過ぎてから。きっかけはクラブミュージックでした。