現役時代、タイトル戦の対局と対局の合間にクラシック音楽を聴くことで、心身をいい状態に保つことができたという将棋棋士の加藤一二三さん。82歳の現在もバラエティー番組など多方面で活躍する「ひふみん」ですが、長年音楽に親しんできたことが自分の世界を広げ、すばらしい人たちとの出会いにつながっていると話します。インタビュー後半では、長きにわたって現役を貫くことができた背景にある、勝負師としての心構えについても聞きました。

(上)モーツァルトの「レクイエム」聴いて名人に
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私、歌は結構いい感じです

 音楽は聴くだけでなく、歌うことも好きです。タイトル戦は対局中も長時間の戦いになるので、時々別室で歌を歌ったりしていました。カトリック教徒なので、主に聖歌ですね。そうやって長年、何かにつけて声を出して歌ってきたからか、私、歌は結構いい感じなの。以前、テレビ番組でご一緒した作曲家の青島広志先生に教わったことがあるのですが、先生いわく、私の声はテノールで、音程がいいとのことです。

 これもテレビの企画でしたが、ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんが長年続けている「めざましクラシックス」というコンサートで、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の指揮をしたことがあります。自分が指揮棒を振ると、目の前にいるすばらしい演奏家たちが一斉に名曲を奏でる。聴いているときには知らなかった、音楽の楽しさを味わうことができた経験でした。

 また、最近はオペラ歌手の錦織健さんとNHK-FMの番組で共演しています。錦織先生は超一流の声楽家で、しかも将棋も詳しくて強いんです。2022年の元日に放送された回では、ナポリ民謡の「帰れソレントへ」を歌いました。

 音楽を通じて、こうしたすばらしい方々と共演する機会を得られるのはうれしいことです。普通に考えたらご一緒するなんて恐れ多いけれど、音楽が好きだということで、いろんな出会いが広がっていくのが楽しいんですよね。

「五木ひろしさんとCMのお仕事をしたことがあって、一緒に歌ったんだけど、『加藤先生、これ以上歌がうまくなってもらっては困ります』と言われました(笑)」
「五木ひろしさんとCMのお仕事をしたことがあって、一緒に歌ったんだけど、『加藤先生、これ以上歌がうまくなってもらっては困ります』と言われました(笑)」