ウィーンはGemütlichkeitがあふれる街

 ウィーンでは素晴らしい音楽体験もたくさんできました。住んでいた家は、18世紀にモーツァルトが暮らし、オペラ『フィガロの結婚』を書いたモーツァルトハウスの斜め前。オペラハウスも楽友協会もコンツェルトハウスも歩いて行ける場所です。日本だとコンサートやオペラって、半年以上前からチケットを押さえないと行けなかったりしますよね。でもウィーンでは、音楽が聴きたくなったらふらっと出掛けられる。そういう環境はやっぱりすごいなあと思います。仕事で大変なことがあったときも、家に帰って着替えてコンサートに出掛けると、気持ちがぱっと切り替わりました。

 オーストリアからチェコにあるミュシャの生家に友人の車で向かっているときに流れていた、ベートーヴェンの交響曲第7番の第2楽章。オーストリア航空でウィーンに着陸するときに流れるヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」……。私の中では、駐在中の風景と音楽がセットで記憶に残っています。

 ドイツ語で、ゲミュートリッヒカイト(Gemütlichkeit)という言葉があります。英語のcomfortよりももっとくつろいだ心地よさという意味なんですね。日常の中で、あちこちから美しい音楽が流れてくるウィーンは、ゲミュートリッヒカイトが街の中にあふれていました。仕事の大変さに押しつぶされずにやってこられたのは、ウィーンだったからかもしれません。

ウィーン時代に住んでいた「ドームガッセ」の写真を手に。「ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートにも2度行くことができました。会場の楽友協会の空気が普段とは全然違って、それは素晴らしい体験でした」
ウィーン時代に住んでいた「ドームガッセ」の写真を手に。「ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートにも2度行くことができました。会場の楽友協会の空気が普段とは全然違って、それは素晴らしい体験でした」

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取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/鈴木愛子 撮影協力/OTSUKA FARM Cafe and Kitchen

板谷和代(いたや かずよ)
タンタビーバ取締役、東京経済大学客員教授
板谷和代(いたや かずよ) 東京女子大学短期大学部英語科卒業後、日本航空に入社し37年間勤務。カウンターセールス、ホテルPR、国際線法人営業などを経て、2005年に会社初の女性海外支店長としてオーストリア・ウィーンに駐在する。2009年の帰国後は社内の人材育成部門の責任者を務め、2016年3月末退職。2015年、人材育成や組織開発など、企業の「成長の種まき」を行うタンタビーバを共同設立し、取締役に就任。産能大学(現・産業能率大学)大学院経営情報学研究科組織・人事コース(MBA)修了。