コンサートの前はお客様の耳に刺激を与えないよう、マイクを使わずに話さないといけないそうなんですね。ステージの中央に立ち、会場に向かって「皆様」と最初の発声をしたその瞬間、ホールに反響する自分の声が耳に届きました。その気持ちよさといったら! ああ、これが一流の空間のすごさなんだと感動しました。自分の声の反響に酔いしれて、実に気持ちよく最後まであいさつをしたら、後で招待客の方に「こんなに堂々とあいさつをする日本の女性は初めて見た」と言われました(笑)。

「国境なき合唱団」コンサートであいさつをする板谷さん
「国境なき合唱団」コンサートであいさつをする板谷さん
何度もオペラを見に行ったウィーン国立歌劇場で(上写真2点は板谷さん提供)
何度もオペラを見に行ったウィーン国立歌劇場で(上写真2点は板谷さん提供)

思いがけない海外赴任、夫に背中を押され決断

 46歳のとき、夫を日本に残してウィーンに単身赴任することになった2005年からの4年間は、とりわけ音楽に支えられた日々でした。

 私は総合職ではなく地上女子サービス職という職種で入社していたので、管理職になることも、ましてや社内で女性初めての海外支店長になることも想像していませんでした。だから、部長から「エリア2(中東・ヨーロッパ・アフリカ)のどこかへ管理職として行けるか?」と聞かれたときは、「なぜ私が?」と。ただ、挑戦してみたい気持ちはあり、夫も背中を押してくれたので決断できました。

 実際にウィーンに行ってみると、前任者から十分な引き継ぎをしてもらえず、着任して初めて分かって困惑するような仕事が残されていたりもしました。10歳も年下の女性だからと軽く見られていたのかもしれませんね。中欧と東欧の15カ国を担当していたので、あちこち営業で飛び回り、体力的にもけっこうハードでした。

 それでも結果的には、支店長としてウィーン営業支店を明るい組織に変え、売り上げも伸ばすことができました。チームが活性化してメンバーがいきいきとすることに喜びを感じ、これからのキャリアでは人材開発、人材育成をやっていきたいと思うようになった。それが今の仕事にもつながっています。