思った通り、直接言葉を聞いて理解しようとしたことで、ヨッフェ先生の気持ちも考えもよく分かりました。スペイン狂詩曲をとても丁寧に指導していただいて、最後に1曲通して弾きなさいと言われました。

 2台のピアノが並んでいて、僕の演奏に合わせて先生が横で一緒に弾いてくださったのですが、そのときの感覚は忘れられません。同じピアノで、同じ空間で弾いているのに、音の響きも、音色も、バランスも、音楽の推進力も、僕と先生とでは全然違ったのです。

 人の演奏にどんどん引っ張られて、高揚していく感覚も初めて経験しました。トップレベルの演奏家が身を置いている音楽の世界というものを、初めて垣間見られた瞬間でもありました。

「隣に並んで一緒にスペイン狂詩曲を弾いたとき、ヨッフェ先生と僕とでは、音の響きも音色も、何もかもが全然違いました」
「隣に並んで一緒にスペイン狂詩曲を弾いたとき、ヨッフェ先生と僕とでは、音の響きも音色も、何もかもが全然違いました」

「何かができるようになること」は人間の根源的な喜び

 この公開レッスンでもう一つ大きかったのは、「できないことができるようになる喜びや感動って、こういう感覚なんだ」と実感したことです。もちろんそれまでのピアノのレッスンでも、先生に教わってできなかったことができるようになる体験は何回もしていましたが、ヨッフェ先生の指導で味わったのは、何かそれまでとはまったく違う次元の感覚でした。

 「できるようになったらうれしい」って、赤ちゃんや子どもでも、もしかしたらおじいちゃんやおばあちゃんになったとしても、きっと思うことなんですよね。例えば自転車に乗れるようになったとか、ゲートボールでうまくプレーできたとか。そういう何か人間の根っこのような喜びを生み出すことができたらいいなと、痛烈に思いました。