リストの難曲「スペイン狂詩曲」で公開レッスンに参加

 阪大を選んだのにはもう一つ理由があります。それは、いい大学で、なおかつ家から一番近いこと。とにかくピアノを練習する時間を少しでも長く確保したかったんです。休みの日は1日12時間くらい練習していましたし、学校がある日も夕方に授業が終わると、帰りの急行電車に間に合うよう教室を飛び出して駅まで走っていました。文字通りピアノ漬けで、合コンに行った経験もありません。ある意味ストイックな大学生活でした。

 そんな10代の頃に大好きだったのが、リストの「スペイン狂詩曲」。スペイン民謡に基づいた色彩豊かなピアノ曲で、僕はリストの傑作の一つだと思っています。マレイ・ペライアというピアニストの演奏が好きで、CDを繰り返し聴いては自分でも弾きたいとずっと思っていました。ただ、難易度が高いリストの曲の中でもとりわけ難しく、「まだ早い」となかなか先生から許可が下りなかった。やっと弾く機会をもらえたのが19歳のときでした。

 数カ月練習して発表会で演奏したら、先生は「この曲で公開レッスンを受けてみないか」と言ってくれました。聴衆がいる場で、海外の著名な演奏家の方に指導を受けるというもので、僕にとっては初めての経験。場所は当時新大阪にあったベーゼンドルファーのショールームで、講師はディーナ・ヨッフェ先生という世界的なピアニストです。公開レッスンは複数の生徒が1時間ずつ指導を受けるのですが、くじ引きで僕がトップバッターでした。

 通訳をお願いすることもできたのですが、自己負担でお金もかかるし、何より先生と直接コミュニケーションできたほうがいいと思って、通訳なしでレッスンに臨みました。留学経験など全然なかったのですが、理系科目よりも英語が一番得意だったし、まあなんとかなるだろうと。