ビジネスの転機で背中を押してくれたシンフォニー、大切なライフイベントを彩ったアリア…クラシック音楽を愛する各界のリーダー層が、自身にとって忘れられない一曲と共に人生を語ります。今回登場するのは、クラシック音楽のプロデュースを手掛けるアーモンド代表取締役の松田亜有子さん。東京フィルハーモニー交響楽団の広報渉外部部長を務めるなど長年音楽の世界に身を置いてきましたが、もともとは一般企業に勤めたかったのだとか。そんな松田さんを音楽の仕事へ導いたのは、ある作曲家との出会いでした。

(上)東京フィル元部長 図書館で出合った1冊の本に魂震えた ←今回はココ
(下)ウォール街のトップが集まるNYフィルの公演は外交の場

 私はこれまで、新潟のコンサートホールや東京フィルハーモニー交響楽団で企画制作や広報の仕事に携わってきました。その過程で、「本当の先進国は、経済大国であり文化大国でもある。この両輪で回っている」という政治評論家の竹村健一さんの言葉に感化され、アートマネジメントをする側ももっと日本の経済・社会構造を知らなければならないと考えるようになりました。それで一度はクラシック音楽の世界から離れ、企業のCSR活動や事業改革などの支援にも携わりました。

 ビジネスの世界で過ごした6年間を経て再び東京フィルに戻って5年、自分がやりたいことがより明確になり、クラシック音楽の公演やイベントなどをプロデュースする会社を2018年に起業。音楽を通して国と国、人と人がつながっていけるような場をつくりたいと日々奮闘しています。

引っ越す先々で「その地域一番」のピアノの先生に師事

 大学では音楽学部でピアノを専攻しました。といっても、演奏家になりたいと思ったことは一度もないんです。ドビュッシーのピアノ曲「喜びの島」は大学時代、私に大きな影響を与えた人と、今につながる仕事へ導いてくれた曲です。

 わが家はサラリーマンの父が転勤族で、生まれたのは山口県下関市ですが、その後各地を転々としました。両親の教育方針は、「教育だけは一流を」というもの。子どもの頃からピアノを習っていて、転勤する先々で、母が見つけてきた「その県や市で一番」の先生にレッスンを受けていました。

 母の教育熱はすさまじくて、夏休み中は朝起きてピアノの練習をしないと、部屋に鍵をかけられました。家族旅行に行くときも、1日練習を休んだら指が動かなくなると言って、宿泊先にピアノがあるかどうかを調べるんですよ。中学に入るまで、母は「ピアノ練習したの?」「練習しなさい」っていう日本語しか知らないんじゃないの、と思うくらいでした(笑)。

 高校は下関に戻ってきて、進学校に通っていました。周りは上位の大学を目指していたし、私もそのつもりでした。それが2年生のとき、指導を受けていたピアノの先生がソリストとして出演するオーケストラの演奏会を聴きに行ったことで一変します。