「音楽家の手」を専門に診る医師になるという目標を見つけたものの、学ぶ手掛かりがつかめずもがき続けていた30代半ば、念願だったロンドンへの留学を果たした整形外科医の金塚彩さん。帰国後、千葉大整形外科で「パフォーミングアーツ医学外来」を開設しますが、「知識を得た先は、自分で実践を重ねていくしかない。今も試行錯誤の日々」と気持ちを新たにしています。

(上)「音楽家の手を診る医師」 夢を支えた辻井伸行のピアノ
(下)手は音楽家の命 不安に寄り添い舞台で輝く姿を支えたい ←今回はココ

パフォーミングアーツ医学の知識を体系的に習得

 「音楽家の手」を診る医者になりたいという目標をかなえるため、2017年にロンドンのUniversity College of London (UCL)に留学しました。一番の目的は、パフォーミングアーツ医学(PAM)の知識を体系的に学ぶこと。UCLでは大学院形式の授業を受け、ディスカッションをし、模擬患者さんが来て診察手技も実践。現地のPAM専門クリニックには音楽家だけではなく、シルク・ドゥ・ソレイユの団員やミュージカル「ライオン・キング」に出演している俳優、歌手などパフォーミングアーツにたずさわるいろんな方がいらっしゃるとのことでした。

 典型的な受診理由として、演奏家は筋骨格系の痛み、歌手だと声、俳優はメンタルコントロールの相談が多いんです。舞台に立つ方たちって、普通はクリニックに来る姿を見せたくないものですから、医療者側はその心情を理解しておかなければなりません。彼らの専門性を尊重しつつ、必要な医学的サポートを提供する。それがPAM専門クリニックの役割です。

 講義やテスト、日常のことなど、すべてを英語でこなすのは大変でしたが、日本から学びに来た私のことをとても歓迎してくれて、同級生にも恵まれて、とにかく楽しかった。PAMの学科では日本人で初めての卒業生として、1年半の留学を終えました。

 知識を得ることはできましたが、患者さんの状況は一人ひとり違うので、実際に治療しないと分かりませんし、教わった通りにやってもうまくいくとは限りません。あとは自分で積み重ねていくしかないと思っています。

UCL留学時代、クラスメートたちと(写真提供/金塚さん)
UCL留学時代、クラスメートたちと(写真提供/金塚さん)
「留学でPAMの知識は得られたけれど、実際に教わった通りにいくとは限りません。あとは自分で積み重ねていくしかないと思っています」
「留学でPAMの知識は得られたけれど、実際に教わった通りにいくとは限りません。あとは自分で積み重ねていくしかないと思っています」