キリマンジャロ登頂で目の当たりにした現実

―― 「エシカル」という言葉は、ここ数年でようやく見聞きするようになりました。2015年に末吉さんが中心となって立ち上げた「一般社団法人 エシカル協会」は、どんな経緯で設立に至ったのですか? また、具体的な活動についても教えてください。

末吉 エシカルとは、英語で「倫理的な」「道徳的な」という意味を持ちますが、私たちの協会では「法律の縛りはないけれども多くの人が正しいと思うこと。または本来人間が持つ良心から発生した社会的規範を意味します。そこから派生して、今では、人や社会、地球環境、地域に配慮した考え方や行動のことを指すようになりました」と説明しています。

 私が環境問題をはじめ、さまざまな社会課題に関心を抱くようになったきっかけは、テレビ番組の取材を通してさまざまな世界を見て回るうちに、環境をはじめ多くのものが犠牲になっている構造を知ったからです。

 特に、キリマンジャロ登頂の際に目の当たりにした光景が忘れられない体験となりました。その光景とは、温暖化のため、大きく減退してしまった氷河の姿です。このとき、日本の人たちに伝え、改善に導く活動をしたいと強く思いました。

―― その後、フリーアナウンサーとして仕事をする傍ら、環境問題や途上国の生産者と先進国の消費者が対等な立場での取引を促すフェアトレードの活動に取り組むようになったのですね。

末吉 はい。ただ、環境問題というのは幅が広過ぎて、自分が関わることに意味があるのかと自問自答したこともありました。そんな折、フェアトレードブランドをグローバルで展開するピープルツリーという会社の創設者であるサフィア・ミニーに出会い、私の進むべき方向性が確立されました。

 彼女が取り組んでいることは、環境だけでなく、途上国の生産者に仕事の機会を与えるという意味でも、大変意義のある活動です。私自身、ファッションが大好きだったので、自分が好きなことを通じて世界が変えられたらいいなと思いました。

 そこで、フェアトレードについて専門的な知識を持つ人、実践できる人を増やしたいと考え、2010年からフェアトレードコンシェルジュという講座を1年に2回ずつ定期的に開催し始めました。

―― フェアトレードコンシェルジュ講座は、時代の流れもあってか、毎回人気だったようですね。

末吉 ありがたいことに、初回から約30名が集まり、その後もどんどん広がっていきました。コンシェルジュたちのネットワークが増えてきた2015年、さらに社会的に責任を持って活動していきたいと考え、フェアトレード・コンシェルジュの第1期生であった2人と共にエシカル協会を立ち上げました。

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末吉里花 身近な暮らしに目を向けると、変化が起こせる

取材・文/富岡麻美 写真/佐野竜也

末吉里花
エシカル協会代表理事 / 日本ユネスコ国内委員会広報大使
末吉里花 慶應義塾大学総合政策学部卒業。TBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅した経験を持つ。日本全国の自治体や企業、教育機関で、エシカル消費の普及を目指し講演を重ねている。著書に『はじめてのエシカル』(山川出版社)、新刊絵本『じゅんびはいいかい?〜名もなきこざるとエシカルな冒険〜』(山川出版社)ほか。東京都消費生活対策審議会委員、日本エシカル推進協議会理事、日本サステナブル・ラベル協会理事、地域循環共生社会連携協会理事。https://ethicaljapan.org